ことのはオンライン 2日目 @古川砅、間雁透

 こんにちは。先日に続き、M1の古川です。

 新歓イベント2日目の企画として、1日目とは別メンバーでリレー小説の実況をしました。一瞬来てくれる人がいた気配があったのですが、その人は1日目のリンクを踏んで去ってしまわれた......。難しいですね……。

 

 以降は今日のログです。1日目とはまた雰囲気の違う小説になりました。

 

ことのはオンライン 2日目   2020.11.2 (月)

 

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本日の参加者(執筆順)

  • 古川 砅 (ふるかわ わたる):M1、企画主催
  • 間雁 透 (まかり とおる):M1

 

ルール

  • 15分経ったら次の人に交代
  • 100字以上は書こう
  • 6ターンで終了(合計ざっくり90分)

 

テーマ

  • 寿司

 

以下本編

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「新しい寿司が食べたい」

 炙りサーモンの皿をレーンから取り出しながら井口は言った。

「新しい寿司って何さ」

 私は海鮮そばをすする手を止め、一応彼に聞いてみる。

「新しい寿司って言えば、新しい寿司だよ。もう100円寿司には飽きた。新鮮な寿司が食べたい」

「100円寿司も十分新鮮だよ」

「そういうことじゃないっていうのはお前も分かっているだろう!」

 バンッと両手で机を叩きながら、井口が勢いよく立ち上がる。店員さんが何事かという顔で遠巻きに見ているので(すみません~、大丈夫ですんで~)とジェスチャーを送っておいた。

「100円寿司に飽きたっていうけど、それ井口に問題があるんじゃないの? 井口、よくここに来てるって前言ってたじゃん」

 言いながら、私はかきあげを口に放り込む。

「言ったような気もするな」

 井口はむすっとした表情で応える。

「頻度は?」

「朝と晩」

 井口の答えに私は咳き込む。彼の顔をじっと見つめるが、冗談を言っている風でもない。

「それは200%井口が悪いって。食生活が偏りすぎ」

「寿司は完全栄養食だぞ。偏るも何もないだろうが」

 井口は真顔で答える。常識と狂気とは本人に区別がつかないという意味で紙一重なのかもしれない。(古川)

 

 井口の前に、炙りサーモンの残骸が積み上げられる。このチェーン店は食べ終わった後の皿を回収口に押し込むと何枚か毎にゲームができるのだが、井口はそれを最後にするのが楽しみのようだった。積み上げられた皿は20枚に達している。

「……オーケイ。じゃあ新しい寿司とやらを考えよっか。井口、よく食べる寿司は?」

「それを聞いてどうするんだ?」

「普段食べる寿司から遠いものの方が、井口にとって新しいんじゃないかと思って」

「なるほど」

 井口は神妙にうなずいた。どこか満足そうなのは私が真面目に考えていそうだからだろうか。

「今日の戦績からいうと」

 井口は積み上げられた皿を指で数える。

「炙りサーモンが3皿、炙りチーズサーモンが2皿、サーモンカルパッチョが4皿……」

「うん、とりあえずサーモンはなしだね」

 というか、やっぱり偏ってるじゃん、という言葉は飲み込んだ。

「……いくら軍艦が2皿、ってとこか」(間雁)

 

 20皿の内訳は8割がサーモンで残りが軍艦巻きだった。

「とりあえずそこのエンガワとか食べてみれば? 新しい出会いになるかも」

 エンガワの行進を箸で差してから、少し行儀が悪いなあと引っ込める。

「あれは寿司じゃないな。白い」

「白い」

 私は思わず復唱する。

「寿司には彩りが不可欠だろう。よってあの白いやつは寿司じゃない」

「寿司じゃないなら何なの?」

「酢飯のにぎりに刺身が載った料理だな」

 それを寿司と呼ぶんじゃないのか、と叫びかけたけれど話が進まないから叫ばず飲み込む。それでも飲み込みきれなかったから、グイっと湯呑のお茶を飲み干した。

「じゃあそこのハンバーグは? 色あるし」

 私は投げやりに提案してみる。色といっても茶色だけど。

「ふむ。試してみるか」

 井口は存外素直にそう言うと、ハンバーグの皿を取った。

「え? いいの?」

「何が?」

 皿を宙に持ったまま、井口が首をかしげる

「いや、いいならいいけど......」

 井口の基準がわからん。(古川)

 

 井口はハンバーグ寿司をこれまた神妙な顔つきで口に運んだ。普段のとぼけているのか真面目なのかどちらともつかない表情とはすごい違いだ。口元についたデミグラスソースが色々と台無しにしていたけれど。

「これは――」

 裁定が下される。

「アリだな」

「アリなんだ」

 サーモンはアリ、エンガワはナシ、ハンバーグはアリ……。なんとなく、法則が見えてきた気がする。

「じゃあ、タマゴはどう?」

「タマゴは駄目だ」

「なんで? 彩りもあるしいいんじゃないの?」

「タマゴは黄色だろう。警戒色だ。ヒトの食べるものじゃない」

「全国の養鶏場の人に謝って?」

 というか、結局見た目で判断するのか。もったいないと思うけどなぁ。

「じゃあ……」

 私は井口が好きそうなものを片っ端から勧めた。ネギマグロ、炙りチーズ豚カルビ、チキン南蛮……。探せば探すほど、なぜこんなものが? と思うものがたくさん見つかった。もう寿司になってないものなんてないんじゃないか?(間雁)

 

「いや、今日は思わぬ発見ばかりだったな。100円寿司にまだこれほど可能性があったとは! 岸田には感謝する」

 井口は私に向かって満足そうに頭を下げた。

「いいって。私も後半面白かったし」

 寿司の懐の深さというか「酢飯に何か載ってれば何でもOK」と言わんばかりの企画のいい加減さはいっそ見習いたいものだった。

 

***

 

「岸田ッチてさー。趣味悪いよね」

 かきあげうどんをすする私に木村が言った。

「何、うどんの悪口? 言っとくけど私は麺類の味方だよ。差別なく平等に私は麺類を愛してるから」

「あー。うん。うどんはアタシも好きだから、別にまあ」(古川)

 

 木村は苦笑しながら「そうじゃなくて」と言って、

「井口と仲いいみたいじゃん。あいつちょっと変わってるよね」

「そう?」

「なんか普段はすました感じだけどさ、食事のことになるとうるさくって。昔、共通の知り合いとなりゆきでご飯に行くことになったんだけど、寿司しか食べないって強情だったんだよね」

「あー、まぁ井口らしいね」

「それを『らしい』で済ませられる岸田ッチ、懐でっけ~~」

「寿司の懐の深さには負けるよ」

「何それ、井口の影響?」

「そうかも。私たち似た者同士だからさ。わりと影響しあってるんだろうね」

「えー、岸田ッチと井口じゃ全然違うよ~~」

 そう言ってカラカラと木村は笑った。

 そうかな、と言って、私もカラカラと笑った。



 人にはどうしても譲れないものというものがあってしかるべきだと思う。周りから見れば変だとしても、井口にとっては寿司を食べることこそが譲れないものなのだ。たとえそのせいで少しの生きづらさを抱えたとしても。

 どの店にもたいてい麺類はあってよかったと思いながら、私はうどんの出汁をすすった。(間雁)