2014-01-01から1年間の記事一覧

時雨沢恵一「夜が運ばれてくるまでに」@麻木

○あらすじ 男の子と女の子は、隣りに住むおばあさんの家に遊びに行き夜が来るまでのわずかな時間に、いろいろなお話を聞くのが好きでした。―もう、あの村におばあさんはいません。男の子は、小説家になって、女の子は、歌手になって、ときどき、おばあさんの…

お題『歌舞伎』『パイロン』『もうちょっと』@師父

酩酊している。 「もうちょっとだったのになぁ」 酒と香水の匂いを振りまいて、歩く。 視界はぼやけ、音は遠く。 脳裏には、先刻の歌舞伎の情景。 「あの芸者さん、美人だったなぁ」 今まで見た誰よりも美しく見えたのは、酔いのせいだろうか? 思い出すだけ…

穂村弘「整形前夜」@青桐李

あらすじだが、と私は思う。日本女性の美への進化もまだ完璧ではない。例えば、踵。あの踵たちもやがては克服され、「おばさんパーマ」のように絶滅してゆくのだろうか。かっこ悪い髪型からの脱出を試み、大学デビューを阻む山伏に戦く。完璧な自分、完璧な…

お題『セミ』『文字』『山姥』@掛流野カナ

あれは、十数年前のことだ。僕はまだ小学生で、田舎の祖母を家族揃って訪れていた。 都会生まれ都会育ちの僕は、荷ほどきもそこそこに、大喜びで山へ虫捕りに出かけた。 都会ではセミが鳴くばかりだけれど、さすがド田舎の山。 カブトムシなんかが山ほど見つ…

お題『歴史上の人物』『発明』『火事』@助野 神楽

「いい加減、話してはもらえませんかねえ。源さん」 「あんたも、苦労性ですねえ。嘉門の旦那。あっしは何も見とらん知らんと言うとるでしょうが。このやりとり、何回目だと思ってらっしゃるんですかい」 「五回目ですかな」嘉門はすぐに答えた。 「わかって…

渡邉美樹「きみはなぜ働くか」@江乃本

内容 「きみたちは人生の主人公なんだ!」「夢なくして、何が人生だ」――。新たな挑戦を続けるワタミ会長・渡邉美樹が、「なぜ生きるか」「なぜ働くか」をすべての男女に問いかける。珠玉のメッセージ集。(本誌裏表紙より引用)感想 学生の身分である自分は…

お題『天使』『竜』『最初の物語』@窪屋 綾人

夜空を舞うは一匹の黒竜。その口から放たれた幾数もの火球は、山間の小さな町を飲み込んだ。 夜が明け、町中の物を燃やし尽くした炎が治まったころ、町の中心あたりで一人の少年が目覚めた。 「んぅ……あれ、どうして俺は?」 起き上がった少年が自らの両手や…

お題『夢』『雨』『机』@三奈月かんな

サアサアと、窓の外で雨が降っている。 くすんだ銀の雨。止まない雨。 ユミエールは机の上に腰かけて、カーテンが開けられた窓を、その向こうの世界をぼんやりと眺めていた。 まるで夢を見ているようだ。と頭の片隅で声がして、いやこれはただの現実だ。と別…

お題『魔法少女』『旗本』『桜吹雪』@師父

さて、魔法少女というものは、皆の夢だ。異論は無いな? ――よろしい。皆が紳士で私も嬉しいよ。 魔法少女といえば、あの衣装だろう。三次元の人間が真似をしようにも出来ない、絶妙なバランス。構造上の問題から、あの鮮やかな色合いを着こなす素質面の問題…

三上康明「恋の話を、しようか」@祈灯愁

あらすじ 地方都市の冬。 高校生の桧山ミツルは、予備校で顔も知らない三人の生徒たちと同じ部屋になり――テスト中に停電が起きた。 なんでもない、一度きりの偶然のトラブルをきっかけに四人は出逢い、惹かれあっていく。 見上げれば灰色の空から雪……。 クリ…

お題『冬』『禁じられた時の流れ』『サボテン』@奏彼方

「おはよ」 「おはよう、はいコーヒー」 「ありがと」 そう言って愛用のカップを受け取る。 「今日は寒いな」 「冬だもん」 何気ない言葉をかわす。 「あれ……」 「ん、どうした?」 「花が咲いてる」 見ると確かに部屋の隅でサボテンが白くて小さな花をつけ…

お題『墓』『赤い』『バラ』@さきん

「久しぶりね、ライザ」 真っ白な墓石に刻まれたライザの名前を指先でなぞる。 「……もう五年も経つのね」 なぞった手の薬指のダイヤが夕日で美しく輝いていた。 「あのね、私ライザのお兄さんと結婚することになったの」 だからね、今とっても幸せなのよ。ラ…

お題『紙』『モグラ』『嫁』@針古野虎

会社からの帰り道。私は久しぶりに商店街のゲームセンターに寄った。 家に帰りたくないからだ。私たち夫婦の間はとうの昔に冷え切ってしまっている。 今は妻と同じ家にいる事だけでも苦痛だ。私は彼女と離婚したい。 しかし、彼女はそれを認めてくれない。 …

三浦しをん「舟を編む」@掛流野カナ

あらすじ 言葉に対する鋭い感覚を買われ、新しい辞書『大渡海』の編纂に関わることとなった主人公「まじめ」。そんな彼が恋に仕事に奔走するお話。 感想 以前映画化されたときから気になっていたもののなかなか読めず、先日ようやく読むことができました。 …

お題『秘書』『冷凍室』『蝋燭』@助野 神楽

「次、僕の番だね。タイトルをつけるとしたら、『冷凍室にて消失』かな」Aが言った。 五人の男が各々胡坐をかいて、円を成すように座っていた。 中央には、火の灯った蝋燭が数本、消えたそれが数本。 「これはある中小企業の社長と、その秘書が体験した話な…

西尾維新「少女不十分」@江乃本

あらすじ作家として名を馳せる三十路の「僕」は、自分の物語作りの基礎となった、トラウマとも言うべき出来事を回想する。当時大学生だった自分と、あるきっかけで出会った少女との交流を描いた物語。感想この本を読み始めた上で最初に気にかかったのは、こ…

三秋 縋「三日間の幸福」@祈灯愁

あらすじいなくなる人のこと、好きになっても、仕方ないんですけどね。どうやら俺の人生には、今後何一つ良いことがないらしい。 寿命の”査定価格”が一年につき一万円ぽっちだったのは、そのせいだ。 未来を悲観して寿命の大半を売り払った俺は、僅かな余生…

お題『図書館』『鍵』『ストラップ』@窪屋 綾人

『私は図書館でストラップの付いた鍵をなくした』 一行だけポツンと書かれたノートを見て、早織はぼやく。 「なにこれつまんない!」 そう言って彼女は手元のノートをパタンと閉じた。表紙に『三題噺帳』と書かれているそれは、彼女自身が課した毎週の課題で…

お題『ザリガニ』『橋』『テント』@三奈月かんな

釣り上げられ、橋の上に置かれたバケツに放り込まれたザリガニが泡を吹き出している。わずかばかり入れられた水すら照りつける太陽で茹だっているのだろうか。 たまに底を這う音がして、まだ生きているんだなと確認できた。 季節は夏真っ盛り。人を刺し殺せ…

お題『ペン』『傘』『水草』@師父

『ペン』『傘』『水草』 水性ペンの、紙と擦れるあの摩擦が、僕は嫌いだ。 彼女はノートにピンクのマーカーを引いていく。胃の縮むような音を立てて。 清潔な部屋。硬質な音。微かなカルキの臭い。ぬめりとした感触。 プレパラートに載せた水草は、下から照…

お題『ロッカー』『花』『石けん』@奏彼方

卒業式の後、私たち夫婦と担任の先生は茜色に染まる教室に来た。なんでも、さくらの私物がロッカーにまだ残っていたらしい。 教室に入って一番に目に入ったのは、黒板に書かれた「卒業あめでとう」の文字とそれを取り囲む寄せ書きだ。 子供たちがここでかけ…

お題『睡眠』『布団』『アイスクリーム』@さきん

現在午前五時。カーテンの隙間から朝日が差し込む。数匹の蝉が早くも鳴いていて暑苦しい。 もう朝になってしまったのか……。今日中に提出しなければならない課題レポートはまだ書き終っていない。 レポートはあと数時間で終わりそうだし、ひとまず休憩しよう…

お題『自転車』『パジャマ』『絆創膏』@針古野虎

私は枕元にある目覚まし時計を見て愕然とする。 時刻はすでに目覚ましを設定した時間を大きく回っている。 やばい。あいつが出発する電車の時刻までもう少ししかない。 私は急いでベッドから起きあがる。 最後がこんな姿なのは恥ずかしいが身支度を整える時…

お題『窓』『蜂蜜』『宝物』@掛流野カナ

朝の香りを含ませて、爽やかな風が吹き抜ける。開け放った窓から吹いてきたその風は、私の髪をなびかせた。 おひさまのにおいが強い気がする。夏が近いからだろうか。 小鳥の鳴き声に混じって、微かなブンブンという羽音が聴こえてくる。 彼らは働き者だ。隣…

お題『法則』『魔法』『新聞』@助野 神楽

「『我流マーフィーの法則 No.167 相談相手の真剣さは、相談の内容の重要度に反比例する』、何これ?」 「ちょっ、なんで勝手に見てるんですか!」 「マーフィーの法則ってあれ? 雨が降った日に限って傘がない、っていう。久しぶりに聞いたよ」 「返して下…

リチャード・カールソン「小さいことにくよくよするな!」@江乃本

内容(「book」データベースより) 「小さいことにくよくよしない!」癖を身につけると、人生は100%完璧にはならなくても、あるがままの現実を抵抗なく受け入れられるようになる。本書に書かれた戦略をためしてみれば、穏やかに生きるための二つのルールが身…

お題『針』『象』『仙人(仙女)』@窪屋

仙人の下へ一人の男が訪れた。男は言う。 「仙人様にお尋ねします。仙人様のお力で象を針の上に立たせることは、出来ますでしょうか」 仙人はいとも容易いと答えると、針と象を呼び寄せた。そして現れた象を見事、一本の針の上に立たせたのだった。とがった…

お題「やかん」「苺」「草」@三奈月かんな

青くさい匂いが充満していた。 日も落ち、気温は徐々に下がってきているのだが、昼に満ちた匂いがなかなかなくならない。しかし、広い草原の中ではそれから逃れることはできない。草を刈って作った小さな円の中でたき火をしつつ、時折空を見上げる。風はあま…

お題「レポート用紙」「密室」「ビーフシチュー」@鉾谷曾良

レポート用紙を折って、紙飛行機を窓の外へと放り投げる。 高校三年の夏、授業が退屈で、私はぼうっと外を眺めていた。太陽が照りつける運動場で、だるそうにサッカーをしている男子生徒達が見える。一方、冷房の効いた教室では、なんだか難しげな話をしてい…

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」@江乃本

あらすじ 優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく――…