前置き
ここまで小説を書くことの良さについて話してきたわけですが「というわけでみんな小説を書いてみてね! がんばれ!」と放り出してしまうとたぶんほとんど誰も書かない気がする。そこで小説の書き方編(もとい事実上の後編)として、小説の簡単な組み立て方をリンク先で公開します。
こんにちは。文芸部ことのはの古川です。というわけで、本記事では小説執筆の初心者向けに小説の簡単な組み立て方を紹介していきます。手元に紙とペンなどを用意して読んでもらえると良好です。
小説に必要なたった3つの要素
小説を書くあるいはお話作りをする上で必要なものとは何でしょう?
例えば「文学性」「文章力」などは絶対必要というものでもありません。本格ミステリやエンタメ小説に文学的メッセージなるものが必須かというとかなり疑問がありますし、文章力なんてものは書いているうちに勝手に付いてくるものです。
作文の授業を受けたことがある方は「起承転結」という言葉を思い浮かべるかもしれません。多少この手の話題をかじったことがある方がいれば「序破急」「三幕構成」などが挙がることもあるでしょう。これらの概念は「ウケやすい話」「収まりの良い話」を作るには有用なものですが、小説を書くのに不可欠なものというわけでもありません。
では小説に必要な要素とは何でしょうか?
実は小説というものは、
- 誰が
- 何に出会って
- どうしたか
という3つの要素が書かれていれば、それで十分成り立つものなのです。これら3つの要素を大まかに決めて、それらを意識しながら文を書くと、それだけで小説が出来上がります。それぞれの要素が具体的にはどのようなものか、またそれぞれの要素について何を書けばよいかをこれから説明していきます。
1. 誰が
『誰が』という要素は小説の『登場人物』に当たるものです。登場人物の名前や見た目、住環境などに加えて、その人物の性格や物の考え方について書いてみましょう。
2. 何に出会って
『何に出会って』という要素は登場人物が関わることになる『出来事や他の登場人物』に当たるものです。出会ったもの自体の説明に加えて、それらが登場人物に対してどう関わってくるのかを書いてみましょう。
3. どうしたか
『どうしたか』という要素は出会ったものに対する登場人物の『反応・行動』に当たるものです。登場人物が行ったことに加えて、登場人物がなぜその行動をしたのかについて書いてみると面白みが増します。余談ですが、登場人物が『何もしなかった』と書いた場合も十分小説になります。
小説を書いてみよう!
上で紹介した要素を踏まえて書くと、それだけで立派な小説が完成します。簡単ですね。ぜひ紙とペン(あるいはタブレットなど)を手に取って試してみてください。
小説を書くことは本来気楽で簡単なことです。慣れないうちは「何かすごいものを書かなくてはいけない」「何か知的で含蓄のある文章を書かなくてはいけない」と構えてしまいがちですが、ちょっとした内容でいいのでとりあえず何か書き出してみましょう。物語を綴ることの楽しさや自分の描きたいものがだんだん見えてくるはずです。
初めは200字くらいで終わったり自分の文章が稚拙に思えたりするかもしれませんが、まずはそれで十分です。多少短くても小説は小説ですし、文章に関しては派手に飾ることより伝わりやすく書くことのほうが大事です。
というわけでみんな小説を書いてみてね! がんばれ!
本記事の主な内容は以上です。お付き合いいただきありがとうございました。
おまけ:小説を書いてみた
ここからは見本(あるいは叩き台)として少し小説を書いていきます。何かの参考になれば幸いです。
要素決め
まずは『誰が』『何に出会って』『どうしたか』の3要素を埋めていきます。
『誰が』はとりあえず平凡な大学生とでもしておきましょう。あまり凝ると時間がかかるので。詳細は後の2要素と一緒に詰めていきます。次に『何に出会って』は、一昨日スーパーで茄子を買ったことを今ふと思い出したので、もうスーパーで売られている茄子ということでいいでしょう。スーパーで茄子を見つけるということは、この話に出てくる大学生は一人暮らしで自炊をする習慣があるのかもしれません。私自身は実家暮らしですが。最後に『どうしたか』は、もう茄子を買ったでいいでしょう。どうして茄子を買ったんでしょうね。麻婆茄子が食べたかったのかもしれない。普段は中華とか作らないのかもしれない。何なら自炊も言うほどしないのかもしれない。もしかしたら誰かと話していたら麻婆茄子を作らないといけない流れになったのかもしれない。かもしれないばかりです。
こんな感じでつらつら考えていったものをまとめると次のようになりました。
『誰が』
一人暮らしの大学生。一人称俺。たまに自炊をする。基本カップ麺。
『何に出会って』
スーパーで売られている茄子。『俺』がカップ麺売り場に向かう途中で見かけた。つやつやしてる。
『どうしたか』
茄子を買った。通りがかった友人に麻婆茄子が得意料理だと言い張った結果、今度ご馳走することになったので。
初めはこういう感じで十二分です。気楽にいきましょう。
出来た小説
上のメモを基にしてこんな小説ができました。500字ちょっとです。
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俺は一人暮らしの大学生だ。今日は夕飯の買い出しをするためスーパーにやってきた。買い出しとは言っても、俺はあまり料理をしない。基本カップ麺だ。カップ麺だってそれなりに栄養豊富なわけだし、別に構うことはないだろう。それに偶にパスタとかを自分で茹でることもある。実に健康的かつ文化的な生活だ。
カップ麺売り場に向かう途中、野菜売り場の茄子が目に留まった。ちょっと立ち止まって茄子を眺める。つやつやしている。紫だ。茄子といえば麻婆茄子くらいしか料理が思い浮かばないが、他にどんな調理法があっただろうか? そう思いながら茄子をじっと見つめる。
そうして茄子を眺めていると「お、田中」と俺を呼ぶ声がした。友人の佐藤だった。
「茄子なんか見て何してんの? 田中、どうせ料理とかしないでしょ」
佐藤のその言い方に俺は結構むっとした。
「そんなことない。俺だって自炊くらいするぞ」
「パスタとか?」
「うっ」
俺は少し言葉に詰まったが、
「パスタだけじゃないぞ。麻婆茄子だって作れる」
と言い張った。俺の言葉に、佐藤は驚いた様子だった。
「何それ、すごく意外。今度食べさせてよ」
「おうとも、期待して待ってろ」
「うんうん、じゃあ来週の、えーと、金曜によろしくね。期待しとくよ」
そう言って佐藤は去っていった。残された俺はどうしようと思った。
とりあえず茄子を二袋、買い物かごに入れた。
今日から毎日、麻婆茄子の練習だ。
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どうでしょうか。ざっくり組んだわりには短いながらも小説らしさのある文章ができたような気がします。あまり深く考え込むとドツボにはまるので、書きたい部分以外は書き飛ばしたり迷ったら「えいっ」と即断してしまうのが書き上げるコツです。各々深めていきましょう。お付き合いいただき、本当にありがとうございました。