ことのはオンライン 1日目 @古川砅、白石乙矢、助野神楽

 こんにちは。M1の古川砅(ふるかわ わたる)です。

 新歓イベント1日目の企画としてZoom上でリレー小説の実況をしました。部の紹介や質問コーナーも行うつもりではありましたが、本日は来場者ゼロでとても悲しい。現地参加の人とかは Zoom 見れませんものね......。明日はどうでしょうか......?

 

 以降は今日のログです。雰囲気を感じてもらえれば幸いです。

 

ことのはオンライン 1日目   2020.11.1 (日)

本日の参加者 (執筆順)

  • 古川 砅 (ふるかわ わたる):M1、企画主催
  • 白石 乙矢 (しらいし おとや):B3、部長
  • 助野 神楽 (すけの かぐら):M2

ルール

  • 15分経ったら次の人に交代
  • 100字以上は書こう
  • 6ターンで終了(合計ざっくり90分)

テーマ

  • ロールケーキ

 

以下本編

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 コンビニで缶コーヒーを買った時、売れ残りの籠にロールケーキがあるのを見つけた。

「先輩何をボケっとしてるんですか? 早くしてくださいよ」

 後ろから小堺がせっついてくる。彼はあと5分で必修の授業が始まるそうだ。授業を一度遅刻したところでそれで何が変わるというでもなさそうだけれど、小堺はそういうところに律儀なやつだった。

「ああ、すまない」

 ロールケーキから目を離し、電子会計を済ませる。バイトのおばあちゃんがコンビニのテープを缶に貼り、俺はそれを受け取った。

「あ~~、ごめんなさい! あと1円出すんで待ってください!」

 小堺がおばあちゃんに言う声が聞こえる。彼は現金派だった。

 

 大学からの帰り道、今朝のコンビニに再度寄る。煙草が切れかけているのを思い出したのだ。会計時、ふとカウンターに目をやるとロールケーキがまだ売れ残っていた。半額で165円。廃棄期限が間近らしい。(古川)

 そのまま捨てられるのも勿体ない気もするし、ちょうど小腹が空いていた俺は煙草と一緒にロールケーキを購入した。レジ袋は金がかかるのでそのまま商品を受け取り鞄の中へ押し込む。

 さて帰ろうかと駅の方へあるき始めてしばらくすると、前方に小堺の背中が見えた。男の割には小さな背中で、背丈も低い。つまようじのように細い足は、少し強くければ折れてしまいそうだ。西日によってできた彼の細長い影が、一緒に地面をよろよろと歩いている。あまりに頼りない光景だった。小堺の姿を見ているだけで不安な気持ちが煽られる。

 こんな奴のどこが良いのだろうか?

 たかが後輩に嫉妬している自分が情けなく思う。(白石)

 

 とりとめのない思考を巡らせながら、僕は歩き続ける。

 駅についたところで、たまたま目に付いた書店に僕は入った。特定の理由があるわけでもないのに、こういった行動をとる動機は深入りするべきではないというのが経験則からの教訓だ。

 週刊や月刊の漫画雑誌の表紙を横目に、最新作の棚に近づく。ここには漫画の単行本や文庫本、ハウツー本、はてまた高校生向けの参考書まで、客に注目を浴びるであろうラインナップが所狭しと平積みにされている。手の届く範囲に、用途が多岐に渡る本が並んでいるこの雰囲気が、僕は好きである。

 この嗜好の最たるものが秩序恐怖症なのだろうか、と僕は今日の一般教養の授業で学んだ専門性の強いワードを頭に浮かべた。

 さてさて、乗るべき電車が駅に来るまであと7分はあるようだ。僕は立ち読みに勤しむことにする。立ち読みという行為は店側からしたら迷惑なのだろう。料理の最中に横からつまみ食いされるような気分に似ているのかもしれない。

 僕の目に留まったのは、税金について述べている新書だった。どうやらたばこ税が増えても、税収はあまり変わらないらしい。これはつまり、税金が増えるごとに、一定数の人が禁煙しているということだ。スモーカーである僕としても、煙草は健康に悪いと思うので、もう少し上げるべきかもしれない。・・・これは喫煙者としてはマイナーな意見なのだろうな。

 

 いつもの電車の乗り、いつもの帰路につく。コンビニの時点で予想した通りの時刻に帰宅できた。

 夕飯には買い置きのレトルト食品とレトルトご飯で簡素に済ませる。洗い物を極力排除する一人暮らし大学生スタイルだ。

 ベランダに出て煙草を一本吸う。別に同居人がいるわけでもないのだが、僕は家で煙草を吸うときは不思議な罪悪感に苛まれるので、外で吸うと決めている。

 煙を吸って、吐く。苦い。そこでロールケーキを一口。甘い。意外に合うようだ。

 ニコチンを吸って頭が冴える。体温が冷える感覚。

 今日の行動をおさらいしてみる。この瞬間。冷静に慣れる感覚が僕は好きだ。煙草の醍醐味はここにあると思う。電子タバコは駄目だ。

 そこで僕は思い出す。唐突に。

 小堺の奴も、下宿生だ。・・・あいつは電車に乗る必要、ないんじゃあなかったか?(助野)

 そういえば篠宮の下宿が同じ路線なのだった。俺はそのことに気づくと、二本目の煙草に火を点ける。ロールケーキを少しずつかじりながら、煙を肺へ送り込む。初めは合うと思った食い合わせだが、五本目を吸い終える頃には只々くどく感じられた。

 

「私、小堺くんっていいな、て思うんだよね」

 半年前、喫煙室で篠宮がそう言った。

「へえ、小堺が」

 俺は何でもないような顔をして、そんな相槌を打った。

「真面目なところというか、擦れてないところというか。小堺くんを見てるとさ、人の善性? みたいなのを私も信じられるような気がするんだよ。だから、いいなって」

 篠宮はそういうとまた煙草に火を付けた。俺は何も応えなかった。

 その日以来、篠宮と喫煙室で会うことはなくなった。しばらくして、篠宮と小堺が付き合いだしたということを人づてに知った。(古川)

 何が善性だ。どこが真面目だ。あいつは偽善者だ。他人に善を為す場合には、いつも謝らなければならないのだ。それがどうだ。あいつは人に善を為して笑っているではないか。その善が他人にとって迷惑かもしれないということを考えていないのだ。恩着せがましいにもほどがある。それを見抜けず小堺のことを好きになった篠宮はもっと馬鹿だ。甘ったるすぎる。今食べているこのロールケーキみたいに甘ったるい。煙草とは相性最悪だ。苦味にはやはり酸味が必要なのだ。いや、そもそも煙草とは食前食後に吸うものであり、いつだって孤独だ。孤高の嗜好品。だから他の一切は不純物であり、邪魔なのものだ。

 妙に苛立って、俺は食べかけのロールケーキを捨てた。もう食べていられない。目にも入れたくない。ついでにもやしやつまようじも見たくない。

 もう、あいつらとは会いたくない。

 

「おひさー」

 大学構内で煙草を吸っていると、篠宮が声をかけてきた。まさか会いたくないと思った次の日に会うことになるとは、神様はどうしても俺に苦痛を味合わせたいらしい。俺は返事をせずに煙を眺めることにした。

「つれないねえ。もしかして妬いてる?」

「お前たちみたいな奴に妬くわけないだろ」

「あれ、私のこと好きだったくせに?」

 篠宮は煙草に火を点けながら悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「ふざけるのも大概にしろよお前」

 心底腹が立った俺は思いの丈をぶつけることにした。(白石)

 

「少なくともだ、俺は性格の悪い女は嫌いなんだよ」

 吐き捨てるように言う。幸いにも煙草を吸っていたので頭が冴えている。感情的になっても、周りからは感情的には見えない。具体的には言動に激情があまり現れない。仮定的に言えば汚い言葉で罵ったり、周囲の物を殴ったりと、頭が悪く見える行動に移すことは無い。このことが今この瞬間の自分をどれだけ助けていることか。煙草様様である。つい先日別れを告げたロールケーキともよりを戻してもいいかもしれない。

「酷いなあ、傷ついたよ」

 篠宮が答える。言葉とは裏腹に、顔は薄ら笑いを浮かべている。ますます腹が立ったが、やはりどこか冷静だ。神様仏様煙草様である。

「性格が悪いっていうのは訂正してやる。お前のそんな態度が好きな野郎だっているかもしれないからな。訂正する。良い性格だよ」

 冷静になっているので、ワードの攻撃力は低めだ。でもこれでいい。ボディブローのように、あるいは毒状態のように、あとでじわじわと効果が出ればいいのだ。

「悪口かと思ったら、今度は誉め言葉? めちゃくちゃだなあ」

「結局、何しに来たんだ。お前は」

「煙草を吸いに来たんだよ。喫煙所に野菜は売ってないじゃない」

 どうやら、向こうも冷静みたいだ。まあいい。このまま無駄話を繰り広げるのも、馬鹿馬鹿しい。

 俺は煙草に集中する。篠宮も煙を吐く。そこで気づいた。彼女が吸っているのは苦みと辛さに定評のある、高級な煙草だ。普段はメンソールか、俺が吸うような安物の筈なのだが。

「どうした? そんな高級品。バイト代でも入ったのか。一本貰いたいものだなあ」

 俺は疑問を呈する。少し口調を変えてあとで嫌な記憶に残るようにする。

「なんかね、吸いたい気分だったの。キツイやつが」そういって篠宮は激しく咳きこむ。一気に吸い過ぎだ。強炭酸をイッキ飲みすればあんな風になるだろう。辛そうな様子を見て、俺は少し溜飲が下がった。冷静だが怒りのパラメータも下がる。

 しかし次の言葉が、冷静な俺の思考を数秒停止させた。

「振られちゃったの。小堺君に」

 

「篠宮さんですか? まあそうですよねー、確かに良いですよねー。こう、クールビューティって感じで」小堺はヘラヘラ笑いながら、篠宮に対する評価を述べる。褒めているが、まるで推しのアイドルに対するようなそれだ。

 あれから、篠宮はさらに数本煙草を自棄酒を飲むかの如く吸い、激しく咳きこみ、怒り心頭だったはずの俺から心配されるほどの勢いだった。最終的には目を真っ赤にして乱暴に煙草の空き箱をゴミ箱に放り込み「じゃ、またね」と何事も無かったのように去って行った。

「振られた、っていってたけど」

「あー、この前初めてお邪魔したんですよー彼女の家。綺麗でしたよ。なんかこう、掃除が行き届いて、女性の一人暮らしって感じで」

 小堺の口調からは、篠宮に対する嫌悪感などのマイナスな感情は一切なかった。やっぱりいいやつだと思う。偽善者などといった自分が少し恥ずかしい。

「じゃあ、何で?」俺は当然の疑問を発した。

 小堺は、当たり前のように答える。

「僕、駄目なんですよー。煙草吸う女性って」(助野)