2016-01-01から1年間の記事一覧

お題『雨宿り』『地図』『刀』@古川 砅

木の葉と土に打ちつける、絶え間ない音。 地面から立ち上がる、熱と湿気。草の匂い。 僅かに吹き寄せる、冷涼感。 雨だ。 そして、ここは、どことも知れない、山奥だ。 「あの山、あるだろ。あそこに良い釣り場があって」 「俺は、釣りに興味は無いんだが」 …

お題「金貨」「アリ」「悪魔」@間雁透

担任の先生に頼まれて手伝いをしているうちに、すっかり遅くなってしまった。とは言っても夏は日が長いので、窓の外はまだまだ明るい。じりじりと日が射して、うるさいくらいに蝉が鳴いている。 階段を下りて、下駄箱へ向かう。今日は部活の練習はないし、こ…

野村美月『陸と千星 〜世界を配る少年と別荘の少女』@祈灯愁

あらすじ 両親の離婚話に立ちすくむ千星(ちせ)。明るく笑ってみせることで、壊れそうな家の空気を辛うじて保ってきた。けれど本当は、三人で一緒にいたいと、素直に泣ければよかったのだろうか……。新聞配達のアルバイトを続ける陸(りく)。母は家を空けた…

森博嗣 「悪戯王子と猫の物語」@青桐李

内容紹介一度しか読むことができない物語を旅する悪戯王子と猫。彼らが出逢う20の物語は、ときには優しくときには残酷、ロマンティックでしかもリアリスティック。無垢と頽廃を同時に内在する、ささきすばるのイラストと、詩的な森博嗣の文章とが呼応し、次…

太宰治「パンドラの匣」@砂金

あらすじ「健康道場」という風変わりな結核療養所で、迫り来る死におびえながらも、病気と闘い明るくせいいっぱい生きる少年と、彼を囲む善意の広人との交歓を、書簡形式を用いて描いた表題作。社会への門出に当って揺れ動く中学生の内面を、日記形式で巧み…

 お題『海の家』『夢』『ライター』@助野 神楽

夢を見ていた気がする。 目を開けて、広がる世界は白い。 真上の景色は普段見ていないために、目を覚ますたび自分の現状に混乱する。 眠る前の自分と今の自分は本当に同一なのか、そんな幻想的な疑問に駆られる。ほんの一瞬だがそう信じ込んでしまう。 それ…

「棒」「鷹」「飛ぶ」@掛流野カナ

僕の目の前、いや、目線よりもわずかに高い位置に、白い棒がかかっている。 これはただの棒ではない。 僕が超えなくてはならないひとつの壁である。 夏。 自分と同じ中学生で溢れた、陸上競技場。 棒(いわゆるバーのことだ)から数m離れた場所で、僕はそれ…

鉾谷 曾良「ぬるぬるした蛇」

私は思った、ぬるぬるした蛇になりたいと。 事の発端は、私が大学の帰り道に自転車で走り回っていたときのことである。とある路地に入ると、一台のワゴン車が道の左側に止まっている。そのせいで、道幅が狭くなっていた。自転車が丁度一台通れる程度の広さで…