東野圭吾『流星の絆』@黎明

流星の絆

東野圭吾 講談社


【あらすじ】
全ての東野作品を凌ぐ現代エンタメ最高峰!
殺された両親の仇討ちを流星のもと誓った功一、泰輔、静奈の兄妹。
十四年後、泰輔が事件当日目撃した男に、功一が仕掛ける復讐計画。
誤算は、静奈の恋心だった。(amazonより)

【感想】
東野圭吾がエンターテイメントに徹した作品。面白かった。

ストーリーは両親が殺された事件の真相究明と三兄弟の仕掛ける詐欺を軸にテンポよく進む。特別すごい展開が待っているわけではないが、中盤以降一気読みしてしまったあたり読者を引き込む力は流石といったところか。オチも驚愕とまではいかなくともきちんと驚けるようになっている。伏線も丁寧。

逆に気になった点を挙げれば、とにかくあっさりしているのである。本作には物語の構成要素として「事件の犯人は誰か」とか「幼くして両親を亡くした兄弟の人生」とか「兄弟間の絆」とか「恋愛」だとか色々でてくるのだけど、どれも表面をなぞるだけで深くは描写していない。各テーマでそれぞれ一冊の本が書けるくらいなのに。本作の煽り文句で『誤算は、静奈の恋心だった』なんて書いてあるけどそれを信じて読むと肩透かしを食らうのではないか。

それゆえ、最初はなんだか各部分の掘り下げが中途半端だなと思ったのだが、たぶんこれはわざとだと思う。そういう部分をあえてあっさり書くことで、重苦しいテーマの小説ではなく単純に面白いエンターテイメント性の高い小説を目指したのだろう。他人のレビューを見ていると、面白かったが東野の力量はこんなもんじゃないという意見が多かったが、こういう風に全体的に薄味で後味良くまとめるのもそれなりの力量がいると思う。変な例えだけれど、本作はしっかり発酵させた年代物の熟成ワインと言うよりも喉越し爽やかな炭酸飲料である。

というわけで本作に重いテーマやドロドロした人間関係を描いた小説を期待したのなら物足りないだろうが、読後感スッキリな面白いミステリーを読みたいという方にはお勧めである。