中村 航『僕の好きな人が、よく眠れますように』@祈灯愁

〔あらすじ〕
「こんなに人を好きになったのは生まれて初めて」。東京の理系大学大学で研究を続けている大学院生の僕の前に、運命の人が現れた。春、北海道からゲスト研究員でやって来た斉藤恵――めぐ。だが直後の懇親会で、彼女はある事情から誰ともつきあえないことを知る。やがて日夜研究を続けて一緒に過ごすうちに、僕はめぐへの思いを募らせ、ついに許されない関係に踏み出してしまった。お互いに幸福と不安を噛みしめる二人の恋の行方は? (本書裏参考)


〔書評〕
この物語は一人称の語りで進んでいく。物語の見所はなんといっても二人の恋愛の掛け引きだろう。くっつきそうでくっつかない甘い恋愛は僕を悶絶させた。甘すぎる。思っていた以上に甘い。
その後の展開も僕を苦しめるように甘い世界へ引きずり込んでいった。砂糖を何杯コーヒーに入れると、これほどまでに甘くなるのかわからないほどである。ここで言う甘いは、非現実的という意味の甘いではなく、まさに恋愛しています見たいな現実的な甘さである。
途中偽名を使う謎の男も現れる。ある物流倉庫の深夜アルバイトで出会う。この男は主人公に助言を与えてくれる男なのだが、一見胡散臭そうに見えてしまうのだが、人当たりの良さにより、そんな疑心は吹き飛んでしまう。この者の正体は最後まで分からず仕舞いだったが、正体は重要ではないのでそれほど気にしなくてもよいだろう。こういう男に一度でもいいから会ってみたい。
主要キャラクターは三人なので話が追えなくなることはない。そしてどのキャラクターもそれぞれに違った魅力を兼ね備えていて話がスムーズに進んでいく。読んでいてむずがゆくなる作品ではあるが、一度はこういう恋愛をしてみたい。そう心から思えるほど幸せに満ちつつも少し不幸な部分がある。これはそういった物語であった。

この書評を見てくださった方々、ありがとうございました。