黒井千次『星からの1通話』@刹那

あらすじ
遠い夜空のむこうにも、大人と子供がいて、樹や石があって、泣いたり、笑ったり、おこったりしているのだろうか。ある日、突然かかってきた星からの電話。どちらもみんな苦労しているとわかったら、切れてしまった――。ショートショートの奇才があなたに贈るファンタスティック・ワールドをどうぞ。(本書裏表紙より)

感想
 本書はショートショート75編を収録しており、ほっこりする話からしんみりする話まで、ちょっぴり不思議な要素が織り交ぜられた、色んな話が詰め込まれている。
 本書を初めて読んだのはずいぶんと前のことであるが、それから今まで、日常生活で起こるふとした出来事をついつい本書の一遍と照らし合わせて考えてしまうことが多々あった。たとえば悪いことが続いた日には「三度目の?」を思い出して挙動不審なまでに注意してしまうだとか、ちょっぴりお遊びでと思って意地悪してたら、「危険な遊び」のように取り返しのつかないことになってしまうのではないか、と思って不安になってしまうだとか。しかも、その感覚は「そんなことが起こるわけがない」と一蹴してしまうには惜しいくらいの、奇妙な説得力を持っていて、気が付いたら、日常のあらゆる場面で「あの話で起こったようなことが実際に起きてしまうのではないか」と半分はらはら、もう半分ではわくわくしている自分に気付く。自分でも悔しいくらいに、作品世界にどっぷりと浸かってしまっている。というよりも、私の日常生活の方が作品に浸食されているような心持になった。
 全体としては75編と作品数がかなり多いが、一つ一つの話が埋没してしまうこともなく、読みやすい文体でさらさらと流れるように頭に入っていく。また、一話が2,3ページ程度のものなので、ちょっとした時間にこの不思議な世界観を楽しんでみるのもいいのではないかと思う。