三上康明「恋の話を、しようか」@祈灯愁

あらすじ
地方都市の冬。
高校生の桧山ミツルは、予備校で顔も知らない三人の生徒たちと同じ部屋になり――テスト中に停電が起きた。
なんでもない、一度きりの偶然のトラブルをきっかけに四人は出逢い、惹かれあっていく。
見上げれば灰色の空から雪……。
クリスマスイブの夜、神野若葉は言った。
「信じていたら、奇跡は起きるんじゃないかって……でもそれを信じていなかったら、もし起きたとしてもそれは……偶然。
たった一度の悲しい偶然」。
一生懸命未来に悩み、精一杯恋をする、十七歳。
ノスタルジックな純愛ストーリー。
(本誌裏表紙より)

感想

できるかぎりネタバレをしないで書くつもりなので、表現をぼかす部分があるかもしれませんが、よろしくお願いします。

この物語はただのハッピーエンドではなく、始まりの終わりです。
男女四人は受験期という中、それぞれが問題を抱えたまま、物語は始まります。
それは受験生ならではの悩みを中心としていて、僕自身四年前を思い出してしまいました。
珍しいところは学校ではなく、予備校を舞台としたところです。
僕は予備校のお世話にならず、受験をしたのでイマイチ想像力が乏しかったのかもしれないですが、通っていた人にとっては懐かしくこみ上げてくるのもがあるかもしれません。

主に桧山ミツルの一人称を軸にし、時折別の人物の人称により話は展開していきます。
この手法により、物語はややこしくなるどころか、クライマックスへ向けて加速度的に面白みを出していく形となっています。
これは恋愛小説ですが、イチャイチャ感はさほどなく、実際に起こりえそうな恋の話となっています。
さきほど、主に桧山ミツルを軸にと言いましたが、十分に他の登場人物も主人公成り得る位の存在感を放っています。
それぞれの気持ちを考えると、恋独特のちくちくした痛みのようなものを感じざるを得ません。
どうしてこのような話を描いたんだ、三上先生。
でもこれが現実的な話なのだろうと思いました。
自分に都合のいいことばかりは起きない。
でも自分に不都合なことばかりも起きない。
人生にはどこか影がありつつも、ちょっとだけ救いのある事態がある。
そんなことを教えてくれる物語です。

僕はこの本を初めて手にとった時、このような物語だとは想像していませんでした。
ライトノベルのように、あまい恋の話が展開していくのだなと思っていました。
そのまま表紙買いをして読んでみると、なかなかに歯ごたえがある物語で驚きました。
でもこの本を買ったことを反省どころか良かったとさえ思いました。
このような恋の物語もあるんだなと思えましたし、なにより最後をぼかして書いているものをあまり読んだことがなかったので新鮮でした。

恋愛小説に興味のある方ならば、一度読んでみることをおすすめします。

短いですがこのあたりで、この小説の感想を終えたいと思います。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。