石持浅海『月の扉』@草一郎

石持浅海(著)
文庫: 350ページ
出版社: 光文社
発売日:2006/4/12



ハードボイルドと本格ミステリーの融合


 最後まで適度な緊張感を保ちながら読み進められた。〈ハイジャック〉〈密室殺人〉というふたつの独立した要素を無理なく同時進行させ、終盤までうまい具合に持っていっている。このキメラ性こそが本作が高い評価を得られらた理由のひとつであるようだ。


 本書で扱われる〈ハイジャック〉と〈密室殺人〉。〈ハイジャック〉をテーマにして物語を書くならば、犯行グループと乗客、あるいは警察との攻防劇を描く必要性があるだろう。また〈密室殺人〉をテーマにするなら、登場人物のいずれかに謎解きをさせなけらばならない。このふたつのテーマはいずれも個性が強く、水と油のような関係といってもよい。しかしながら、本著ではそれら強力な要素を無理なく合わして作られている。普通に考えれば、ふたつが成り立つはずなどないのだ。


 考えてもみてほしい。〈ハイジャック〉された状況下で、〈密室殺人〉が起きる? 機内のどこに密室などあるというのか? それに、いったい誰がなぞ解きをするというのだろうか? いや、そもそも鬼気迫るはずの機内で、悠々と謎解きすることなどできるのだろうか?


 いくつもの疑問が浮かぶことだと思うが、結果として本著はきちんと本格推理小説として成り立っている。だから驚きなのだ。その上、ご丁寧にも誰も予測できなかった結末まで用意しているのだから、素晴らしいとしか言いようがない。犯人の動機にはややとっぴさが目立つだろうが、それでもなかなかのものだと思う。


あらすじ
 沖縄・那覇空港で、乗客240名を乗せた旅客機がハイジャックされた。犯行グループ3人の要求は、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」を空港まで「連れてくること」。ところが、機内のトイレで乗客の一人が死体となって発見され、事態は一変―。極限の閉鎖状況で、スリリングな犯人探しが始まる