夏目漱石「こころ」@小野

あらすじ

時は明治末期。夏休み中に鎌倉に旅行に行った際、「私」は「先生」と出会った。先生は大学を出ているが就職せず、奥さんとひっそりと暮らしている。先生は雑司が谷にある墓地(雑司ヶ谷霊園)へ墓参りに行ったり、私に対して「私は寂しい人間です」と言ったりする。私はそんな生活を送る先生の事に興味を抱き、先生自身の事を色々と尋ねたりするが、先生は答えてくれない。奥さんとの間に子供がいない事も不思議に思うが、やはり答えてくれなかった。また、私に対して「恋は罪悪だ」など急に教訓めいたことを言ったりもする。そんな折に私の父親が病気を患っている事を話すと、先生は「お父さんの生きてるうちに、相当の財産を分けてもらっておきなさい」と、現実的なことを言い出す。

私は大学を卒業後、実家に戻った。卒業後の就職先が決まっていなかった私に対し、家族から就職の斡旋を先生に依頼するように言われ、手紙を出すが、先生からの返事はなかった。まもなく、私は東京に戻る予定だったが、父親の容態が明治天皇崩御と時を同じくして悪化したために実家から離れる事が出来なくなる。

父親が危篤という状況になってようやく先生からの手紙が届く。私は先生の手紙から先生自身の死を暗示する文章を見つけたため、最期を迎えようとしている父親の元を離れ、東京行きの列車に乗る。列車の中で読んだ手紙には、衝撃的な先生の過去が綴られていた。
wikipediaより引用)


感想

前回の書評と同様に今回も教科書で誰もが読んだことのある作品の書評を書いてみようと思う。
まず、教科書においては本作の上中下構成のうち、「下 先生と遺書」の部分しか掲載されていないことに注意されたい。
まずこの作品を上中下とよんでいくうちに感じるのは何よりも「時代の変遷」である。「私」と「先生」がまるで「大正」と「明治」を象徴しているかのように描かれているのである。そして素晴らしいのはその心理描写のうまさであろうか。上中においては「私」が語り手ではあるが、個人的には下の語り手である「先生」の心理描写が素晴らしいと思う。Kとお嬢さんの関係の間で悩まされる先生の考えは、今の時代を生きる私でも納得できるほどの書き方である。
また、少しネタバレになってしまうが、漱石の伏線のひき方は見事の一言だ。下「先生と遺書」においてKが夜中に先生の部屋の襖をあける部分があるのだが、その部分が最後のKの結末につながったところでは身震いがした。正直、このような文章を書く漱石はやはり天才だと思う。いつかはこのような文章を書いてみたいものだ。


この作品は少し長く、はじめは冗長に感じられるかもしれない。一番おもしくかつ、一番文章として優れているのは「下 先生と遺書」の部分であると思う。だから、教科書にも載せられるのだろう。だがしかし、下の一部分だけを読むのと、上中下を通して読むのとでは全く違った世界観が見えてくる。
ぜひ、毛嫌いせずにこの名文を通して読んで欲しいものだ。