中村佑介『Blue-中村佑介画集』@草一郎


中村佑介(著)
大型本: 204ページ
出版社: 飛鳥新社



 普段から油絵や日本画を鑑賞する習慣のない人でも、イラストなら日常的に目にすることが多いと思います。ふらりと街へと出かけたときなどは、電車の吊り広告から路地裏の壁に至るまで、実にたくさんの場所でイラストを見かけるのではないでしょうか。アニメなどを趣味にしている人は特にイラストを目にする機会が多いと思われます。

 さて、イラストが芸術であるのか否かといった考えは人によって違いますが、イラストが古典芸術よりも鑑賞しやすいのは間違いないと思います。キュビスムやらシュルレアリスムといった用語を知らなくても、誰でも簡単に鑑賞できるところからも、イラストが絵画の中でも消化しやすい類のものであるのはご理解して頂けることでしょう。奇しくも季節は秋。秋といえば、芸術の秋。芸術の代名詞はやはり絵画。ということで、今回ご紹介させて頂くのは、中村佑介というイラストレーターの画集です。

 中村佑介が一躍世間にその名を知られるようになったのは、「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のCDジャケットを手掛けたときです。最近では、森見登美彦の小説『夜は短し歩けよ乙女』や石田衣良の『親指の恋人』の表紙を描き、読書好きにもその名を知られるようになりました。カラフルな色使いで描かれた、やや天然っぽいの少女たちのイラスト。それらは男性に限らず、女性にも気に入られる作風であり、見る人に甘酸っぱい印象を与えます。また、ひとつひとつ丁寧に見てみれば、一見簡素に見えるけれども、実はものすごく考え込んで描き込まれていることが分かると思います。

 その中でも特に鑑賞して頂きたいのは、ゲントウキという音楽バンドのシングル「鈍色の季節」のジャケットです。グランドピアノからユニコーンの頭がにゅっと出ているのを、アイスをくわえた少女とラムネを飲んでいる少年が眺めているイラストです。「なぜユニコーンがグランドピアノから顔を出しているの?」「少年と少女の関係はどんなもの?」「時代設定が昭和っぽいのはどういう意図?」など、じっくり鑑賞すればたくさんの疑問が発生すると思います。その真意は作者にしか分かりませんが、それらの疑問に自分なりの解答を与えるのもひとつの絵の楽しみ方だと思います。

 最後になぜ画集を紹介したのか、ということですが、もちろんそれには理由があります。近年におけるライトノベルの躍進は、小説というものを変えてしまいました。それはつまり、現代の小説はその内容に加えて、本の表紙も作品のひとつである、ということです。「ジャケ買い」という言葉があることからも、そのことは納得して頂けると思います。

 発売された小説の多くは、売り上げでその内容を評価されてしまいます。それが最も評価しやすい指標だからです。もちろんその評価方法に意を唱えることは容易ですが、書店に並んでいる小説がそもそも商品であることから、その評価方法を否定することはできないでしょう。そういう意味では、読者の購買意欲を誘う表紙もひとつの評価のポイントといっても過言ではないと思われます。また、表紙が作品の内容に影響を与えることもしばしばあるので、表紙をないがしろにしてはいけないことも分かってもらえることと思います。

 ということで、その評価の一端を担っているイラストレーターも注目してほしいという理由から、この画集を紹介してみました。

 「いやいや、俺はいつもカバーを捨てるから関係ねーよ」

 そう言われると何も言えなくなりますが、まあ、とにかく素敵なイラストなので鑑賞してみてください。値段は画集の中では4000円と平均的な方ですが、思い切って買ってみるのもいいかもしれません。

 

内容(「BOOK」データベースより)
 絵葉書、CDジャケット、小説カバー、ゲーム、ポスター、フライヤーなど、イラストが冠されるあらゆる場所で活躍し、絶えず変貌し続けるイラストレータ中村佑介の10年間の軌跡。