架神恭介/辰巳一世「完全教祖マニュアル」@黎明

あなたも宗教でサクセスしよう!(本書帯より)

【あらすじ】

 現在は就職氷河期です。大学をストレートで出ても就職できないなんてケースはざらで、若者たちの中には自分の理想を追い掛けるよりも、とにかくどこでもいいから就職先を確保したいという思いにかられている人も多いでしょう。けれど、いくらルター先生が「この世の職業はみな天職です」といって平等を謳ったとしても、確かに貴賤の差はなくとも賃金の差は明確にあるわけで、どうせやるなら、できればやりがいがあって、お金が沢山稼げて、人からも尊敬されて、もしかしたら歴史に名が残るような、そんなビックな職業がいいですよね。

 しかし、現実にそんな素晴らしい職業、ビジネスが果たして存在するのでしょうか? また仮に存在したとしてもそれを目指す有能な人物達に埋もれて自分には届かないなんて思っていませんか? けれど、もし上記の条件を満たし、かつ目指す人がほとんどいない、そんな誰もが羨むような職業が存在するとしたらどうでしょうか? もちろん目指しますよね? ならば問題ありません。あなたは教祖を目指せばいいのです! 

 教祖といえば、自分でオリジナルの宗教を作り、それを広めた人のことを指します。すべて自分で最初から創造するわけですから、当然やりがいがあります。また信者が増えれば、信者から寄付としてお金をガッポリしぼりとれますし、彼らからの尊敬も集めます。さらには死後100年もして、自分の宗教がワールドワイドに広まっていたら、まず確実に歴史に名が残りますし、あるいは信者たちによって神に祭り上げられるかもしれません。どうでしょうか。教祖という職業はこのように人間の持つ夢のほとんどを叶えてしまうのです。

 けれど、もちろん不安に思う気持ちもわかります。自分に教祖なんて務まるのだろうか? 教義や戒律を考えるのがめんどくさい! 新興宗教って弾圧されるんじゃないの? いろいろと厄介事が頭に浮かんできます。しかし大丈夫。本書を手にしたあなたなら、何も悩むことはありません。本書の示すとおりに教義を作り、信者を集め、布教し、寄付を集めれば教祖として大成することができるのです。

 宗教とは人をハッピーにするビジネス、教祖とは人をハッピーにする職業です。他人が幸せで、なおかつ自分も幸せならもう言うことはないですよね。さあ、あなたも本書を手にめくるめくハッピー教祖ライフを満喫しましょう! 

【感想】
 ……と、冗談はここまでにして(あながち冗談でもないんだけど)そろそろ真面目に書こうと思う。本書は古今東西の宗教から教祖になるために必要な要素を抜き出し、それを分析した上で、具体的にどうすれば信者が集まり、布教が成功し、教祖として崇められるまでに至るのかを詳細に解説した実用書である。こう書くとトンデモ本のように思われるかもしれないが、最後に載っている膨大な参考文献が示すとおり、内容はいたって真面目で、ネタに走り過ぎることもなく、かと言って学術書のように堅苦しくもなく、本当に簡単に教祖や宗教について学ぶことができる。

 今までの宗教解説書はだいたいにおいて各宗教ごとに個別に体系立てて解説する場合が多かった。しかし本書は教祖に必要な要素という観点から各宗教に共通するもの(例えば各宗教の教義、布教法、信者の保持の仕方、他教についての考え方)を比較検討している。つまり従来の解説書の構成を縦糸とするならば、本書の構成は横糸になっており、そこから浮かび上がってくる宗教という絵は従来の解説書を何冊も読む場合と比べとてもわかりやすいのではないだろうか。

 注意点としては、本書は筆者が日本一読みやすい宗教入門書と自負するだけありとても読みやすいのだが、裏を返せば細かいところまできっちりと書いているというわけではないという点である。良くも悪くも入門書にすぎないので、もしもう少し知識を増やしたいのならこれ1冊で分かった気にならずに、もう何冊か解説書を読んでみるのがいいと思う。ちなみに筆者曰くこの本と「宗教社会学入門」で社会に出て必要とされる宗教知識の90%は集まるのだとか。

 多くの一般人にとって宗教とは怪しいものである。なんとか学会やなんとかの科学なんて胡散臭くてしょうがない。けれど、本書を読めばそういった怪しさや胡散臭さはある程度払拭されるのではないか。また意外に合理的な部分が多いことにも気がつくだろう。宗教というもの客観的に捉えるための入門書として、そしてもちろん教祖になるためのハウツー本として、本書は一読の価値がある。