【あらすじ】
無実の死刑因を救い出せ。期限は3ヵ月、報酬は1000万円。喧嘩で人を殺し仮釈放中の青年と、犯罪者の矯正に絶望した刑務官。彼らに持ちかけられた仕事は、記憶を失った死刑囚の冤罪を晴らすことだった。最大級の衝撃を放つデッド・リミット型サスペンス!第47回江戸川乱歩賞受賞作。 (「BOOK」データベースより)

【書評】
 まず本書はデッド・リミット型サスペンスと謳っているが、社会派ミステリーと言った方が適切だろう。ミステリー界で重要な位置を占める江戸川乱歩賞を受賞したことからも明らかである。ちゃんと読んで宣伝文句を考えてほしい。確かに手に汗握る展開はあるが、どう見ても主軸は「ミステリー」である。というよりも個人的には「社会派」の部分が重要であると感じた。
 この物語の設定は、上記の宣伝文に違わず奇抜である。キャッチーであるとすら言えるだろう。しかし冒頭から繰り広げられるのは、死刑執行の瞬間の惨状と、10年もの間死刑執行の恐怖と絶望に晒され続ける無実の男の悲惨な状況の描写という、なんとも気分の悪くなるものであった。この物語はこの冤罪者を助けるという形で始まるのだが、登場人物達の物語はそれ以前から始まっていた。これは死刑を、もっと踏み込んで言えば罪と罰、誰が本当に裁かれるべきかをテーマにした小説なのである。
 ミステリーとしては、トリック、ミスリード、人物配置どれをとっても良く出来ている。むしろ出来すぎてご都合主義を感じたのはひねくれ過ぎなのだろうか。乱歩賞自体が、どうにもトリック偏重(以前小説の出来は素晴らしかったが、トリックの一部が某作家とかぶったため受賞が見送られた、といことがあった)なような気がする。人物がピタ○ラスイッチのようにきれいに動いていくのは壮観ではあるが。
 だがこの小説の素晴らしい部分はそのミステリー部分を「動」に、罪とは何か?の部分を「静」と配置することにより、物語を引き締めていることにある。作者自身が「低俗ではない娯楽作品を作り続けていこうと思っております」と前書きに書いたとおり、対極構造を利用することでそれぞれの印象を強めている。ミステリーといえばラストは犯人を突き止め大団円となるものも多いが、この作品は終盤のどんでん返しの連続の展開からうって変わって、なんとも地味で後味の悪い終わり方をしている。各登場人物の救済にはご都合主義と呼べるものは一切なかった。個人的にこういう安易に喜べない、なんだかなあという感じの終わり方は好きだ。