森博嗣『探偵伯爵と僕』@草一郎



森博嗣(著)
文庫: 288ページ
出版社: 講談社 (2008/11/14)


どうか、大人になっても、今の純粋な目を失わずにいて下さい。


 本作は「講談社ミステリーランド」というレーベルから出された、いわゆるジュブナイル(子供向け小説)です。けれど、僕ら大人が読んでも十分楽しめる内容だと思います。他の森博嗣の小説ほど文章は難しくないし、ストーリーも複雑ではありません。

 本作には、小さな仕掛けと大きな仕掛けが施されています。小さな仕掛けというのは、劇中で起こった事件の、犯人の正体のことを指します。普段ミステリーを読んでいると自然と犯人探しに注意がいってしまいがちですが、今回はこれを逆手に取られた感じでした。というのも、作中の登場人物の多くがミステリアスに描かれていたので、疑い出したらキリがなかったんです。探偵伯爵から始まって、その秘書チャフラフスカさんやハリィ、しいては主人公自身も怪しく思えて、結末ばかり気になって内容に集中できませんでした。

 大きな仕掛けというのは、あまり詳しくは言えませんが、本作自体に仕掛けられたもの、ということです。最後にそのことが分かったとき、本作の持つ意味合いがまったく異なってきたところがとても驚きでした。今まで児童向けと侮ってきたのが、嘘のように重たい作品になり、思わず「エクセレント!」と叫んでしまったほどです。おそらく、その部分が作者の主張したいところであり、本作のもっとも魅力的なところだと思います。

 本作は森博嗣の作品のなかでも異質だと思います。でも、もしかすると、森博嗣の小説のなかで最高傑作と呼んでもいいかもしれないくらい、素晴らしい小説かもしれません。これは他人に勧めたい本のうちの一冊となりました。

 

内容(「BOOK」データベースより) もう少しで夏休み。新太は公園で、真っ黒な服を着た不思議なおじさんと話をする。それが、ちょっと変わった探偵伯爵との出逢いだった。夏祭りの日、親友のハリィが行方不明になり、その数日後、また友達がさらわれた。新太にも忍び寄る犯人。残されたトランプの意味は?探偵伯爵と新太の追跡が始まる。