山田詠美『放課後の音符』@Anri

あらすじ
大人でも子供でもない、どっちつかずのもどかしい時間。まだ、恋の匂いにも揺れる17歳の日々。背伸びした恋。心の中で発酵してきた甘い感情。片思いのまま終わってしまった憧れ。好きな人のいない放課後なんてつまらない。授業が終わった放課後、17歳の感性がさまざまな音符となり、私たちだけにパステル調の旋律を奏でてくれる。

感想
読み終わった後、はあ、とため息をついた。
つまらなかった、無駄な時間を過ごしたと感じた訳ではない。ただ、憂鬱だった。
本書の中に綴られた全八篇の短編は、そのどれもが思春期の少女の淡い恋を主題にしている。
きゃあきゃあと黄色い声で騒ぎ立てられる幼い恋の時期を過ぎて、じわりと甘く苦く酸っぱい感情を覚えはじめるころの、青春の匂いを孕んだ初々しい恋。それが実に185ページにわたって展開されるのである。
懐かしさを覚える人もあれば、憧れを覚える人もあるだろう。それが私の場合は吐き気すら伴う憂鬱であった。
とりとめのないことで一喜一憂して、笑い、泣き、大いに悩む日々。まさに青春。
しかしながらそれは、そういった日々を送ることができなかったある特定の人種にとっては、自らに絶望を強いる猛毒以外の何物でもない。
「青春」は時として何よりも残酷な凶器となりうるのである。