梓崎優『叫びと祈り』@黎明

【あらすじ】
 砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作(BOOKデータベースより)。


【感想】
 本作は異国を舞台にした連作ミステリである。主人公の斉木は表題作「砂漠を走る砂の道」では灼熱の砂漠で、「白い巨人」ではスペインで、「凍れるルーシー」では極寒の修道院で、「叫び」ではアマゾンの奥地で様々な人々と出逢い、様々な謎を解決していく。そして最終話「祈り」ではこれまでの物語を通して著者の思いがダイレクトに伝わってくる構成となっている。本書は出版社の評価が高く、力を入れて推している新人らしいのだが、なるほど確かにそれだけの実力はあるように感じた。

 全体的にレベルの高い作品であったが、特に素晴らしいと思った点を二つ挙げよう。
 まず一点目は情景描写が非常上手いという点。本作は異国が舞台と言ってもどこか海外の一カ国を中心に話が展開するのではなく、砂漠であったり寒冷地であったりアマゾンであったりと出てくる場所はかなりバラエティに富んでいる。そのため実力がないと砂漠の描写はもっともらしいのに、アマゾンの描写は嘘っぽいといった状況になりかねないのだが、この作品は特徴的な比喩や洗練された文章も手伝って、まるで著者が見てきた景色を切り取ったかのように、どの話でも舞台となる異国が脳裏に鮮やかに浮かび上がってくる。というかおそらく著者は実際に各地に行ってきたのだと思う。そうでなければここまで書けない。もしすべて想像で書いたとしたら、その想像力には感服するしかない。

 二点目としては謎とその解決。本作は連作ミステリなのでそういった部分も勿論重要になってくるわけだが、そこも素晴らしい。
 本作のミステリ部分はホワイダニット、つまり犯人がなぜそうしたのかという動機が問題となる話が多い。しかも何度も書くように海外が舞台なので日本人の価値観ではなく、例えば砂漠の商人の価値観、修道女の価値観、アマゾンの部族の価値観といったまったく異なる価値観が動機の根底にあり、読者はこの点に留意しなければならない。つまり日本人の感覚からすれば謎なのだが、彼らの論理に従えば謎ではなく、そうしても不思議ではない行為だと感じてしまう。このズレというか相違が面白い。特に表題作「砂漠を走る砂の船」は強く印象に残った。なぜ砂漠のど真ん中で人を殺さなければならなかったのかという謎が、砂漠の商人の論理で見事に明らかになるのは圧巻である。

 というわけで新人ながら非常に質の高い作品である。この作家にはこれからも注目していきたい。