山名沢湖『白のふわふわ』@たゆな

白のふわふわ―9 clouds of Yamana world (Beam commix)
山名 沢湖 (著)

【あらすじ】
「いくらしまってもいっぱいにならないフシギなカバン」を持ったわたしは、彼が女の子と楽しそうに歩いている所を目撃してしまう。
Hummingより

【感想】
この本は短編集であり、これ一冊でも作品の幅が広い。
夫が伸びる話や、異次元に通じるカップヌードルの話など様々な作品が内包されている。
その中でも最も感銘が受けたのはこのHummingという作品だった。
あらすじで大体のオチが予想できるかもしれないが、その予想は完全に正しいとは言えない。
そうきたかと唸ってしまうこと請け合いだ。
これがいわゆるSFというものかしらと実感させられた作品である。
そういえばこの作者の他の短編集『いちご実験室』がSFマガジンの書評で紹介されていたそうな。

どこかで見つけた意見だが、この作品集についての非難があった。
というのは、この作者は好き勝手に書きすぎている、自己満足なら同人誌でやれというものだった。
思いのままに書いて何が悪いのだろうか?

私は世間で売れている作者の本が何故かそんなに好きではない。
こういう傾向は正直困る。
売れない作家の本など、すぐ絶版になってしまうので手に入れにくいのだ。
だからといって有名作で私にぴったりと合うものはなかなか見つからない。

私が創作するときに心がけていることは。
大多数の人に受け入れられるのではなく、ただ一人の人に受け入れられればよい、
ということだ。
ただ切れ味を追求した刃物のように作品を洗練させている。
村上春樹のような万能包丁は必要でない。
ただ刺身包丁が一本あればよい。
中間を取った意見など価値は無い。
ただ私の心の奥底に突き刺さる作品こそが善なのだ。
私が長編漫画より短編の漫画を好むのはこういった理由があるからなのかもしれない。
つまるところ長編は短編を引き延ばしたのにすぎない。
長い年月やっていく間に様々な要素を取り入れ間延びしてしまうことは必然的であり、避けることはできない。

ベストセラーの本なんて普段本を読まない人間が買うからベストセラーになるのだ。
村上春樹が売れる理由としてはその最大公約数的性質によるものだと考えている。
最大公約数性質というのは誰にでも受け入れられるということである。
私が見てきた中で売れる作品というものは小ぎれいに纏まっているものが多い。
それに対し私が好きな作品というのは荒削りで雑であることが多いのだ。

散々言ってきたが、売れる作品ノットイコール他人の心を動かす作品が成立するかは分からない。
とはいえ今のところ確かなのは、ベストセラー作品で私の心を動かしたものはないということだ。