ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』@たこのには

 頭脳明晰で精神未分化の少年は、友情や恋情に呑まれて一喜一憂、右往左往。はたまた、勉強のしすぎで頭痛がする。豊かな自然に触れると、幼少の頃を思いだす。けれど、あの頃にはもう戻れない。

 主人公の少年は釣りが大好きだが、勉学に時間を取られ釣りをする暇もない。かと言って、最初は勉学は苦痛一辺ではなく、そこに楽しみを見出していたし、他人からぬきんでてやろうという功名心もあった。少年は、自分は勉学の道を志すものだと思っていた。
 だが勉学は友情の魅惑には勝らず、色を失っていった。さらには恋に崩れ落ちてしまう。少年は、同性、異性の他人にあこがれその魅力に惹かれつつも、関係が深いものになる段になると倒錯し、めまいを覚える。少年の歯がゆい奥ゆかしい心理状態をよく表している。そして、人間関係に魅惑を感じるにつけ、勉学はただの大きな負担となってしまい、ついには少年は勉学の道を降りざるを得なくなる。少年の疲れ切った様子が痛ましい。

 青年期の不安定な心の動きや揺れと詰め込み型教育の束縛感を、詩的なタッチで克明に描いた作品である。