機本伸司『メシアの処方箋』@ポッケ

【あらすじ】
 ヒマラヤで氷河湖が決壊した。下流ダム湖に浮かび上がったのは、なんと古代の「方舟」だった。こんな高地になぜ文明の跡が? いぶかる調査隊をさらに驚愕させたのは内部から発見された大量の木簡。それらにはみな、不思議な蓮華模様が刻まれており、文字とも絵とも判然としなかったが、なんらかのメッセージを伝えているのは確かだった――。一体何者が何を伝えようというのか?


【感想】
 「方舟」という言葉を聞いて旧約聖書の「ノアの方舟」を思い浮かべる人は多いだろう。その他にも本書では「神」や「救世主」などの言葉も多く使われるので、本書の内容を宗教や神話に関するものと勘違いしそうだが、本書が取り上げている内容は生命倫理である。


 本書ではヒトが救世主を最新の遺伝子工学によって生み出そうとする場面がある。しかもその救世主はヒトのDNAにヒトのものではないDNAを組み込んだ生命だ。ヒトのDNAにヒトのものでないDNAを組み込む、そのことに関する規定はなく、ゆえにその人それぞれの倫理観が重要となってくる。登場人物がそれぞれの倫理観をぶつけ合って議論する場面もあるのだが、自分ならこう思う、自分ならこうする、などを考えながら読み進めるとまた違った楽しみが味わえるだろう。