宮部みゆき『模倣犯』@序二段

【あらすじ】
公園のゴミ箱から発見された女性の右腕。それは「人間狩り」という快楽に憑かれた犯人からの宣戦布告だった。直木賞受賞作『理由』以来三年ぶりの現代ミステリー。 (「BOOK」データベースより)


【書評】 
 この小説はとても長い。ハードカバー上下巻で二段組み、合わせて1400ページはある。しかし冗長さは感じられない。宮部みゆきの自然で写実的な文体が、ページを捲る指を鈍らせないのだ。
 構成は全三部で、その部の中にも細かい章立てがなされている。視点は一貫して三人称だが、章ごとに特定の人物にスポットが当たる。連続女性殺人事件という大きな事件を本流のに据えているが、物語の中で展開される出来事は目まぐるしく移り変わり、とても起伏に富んだものになっている。
 
 登場人物が非常に多いが、一人一人の心情や周囲の状況を綿密に描くことで、現実に存在する人間のような立体感を生み、群像劇としての魅力が生まれている。
 
 ミステリーという謳い文句がつくことが多いが、犯人は中盤までに分かっているようなもので、読者は作中でその犯人の正体が暴かれていくのを読み進めていくことになる。これが非常に面白い。犯人は狡猾で、姑息、傲慢だが、それがわかるのは読者だけ。何食わぬ顔で登場人物たちをかき回す犯人に、多くの読者が苦虫を噛み潰しただろう。しかしその犯人の背景も明確に描き、その弱さと脆さもしっかりと描かれているのがこの小説の面白いところ。人間は平等に脆い、ということがこの物語の根底にあるような気がする。