今邑彩『ルームメイト』@来八

あらすじ
私は彼女の事を何も知らなかったのか…? 大学へ通うために上京してきた春海は、京都からきた麗子と出逢う。お互いを干渉しない約束で始めた共同生活は快適だったが、麗子はやがて失踪、跡を追ううち、彼女の二重、三重生活を知る。彼女は名前、化粧、嗜好までも替えていた。茫然とする春海の前に既に死体となったルームメイトが。(「BOOK」データベースより)

感想
 なんだか三割ほどネタバレになってしまう気もするがこの作品は『多重人格』を扱ったものである。
 まずここがイマイチだ、と思った点からあげていこうと思う。
『ミエミエな展開だなあと思っていたら、意外な方向に話は進んで、いやあまんまと騙されました』と本の帯に書いてあるが、これがまずいらない。この言葉が頭から離れなかったせいで、どこがミスリードを誘っているのか意識してしまい、逆にオチが読めてしまう。別に作者の責任でも何でもないので、なんだかやりきれない気分である。
 そして作家自身が一応封印した"モノローグ4"というエピローグが、何と言うかこうあまりに、……である。この最後に出した設定いるのか、やりたかっただけだろ、と思う。が、この設定がなければなりたたない所も確かにあり、"モノローグ4"はこの作品において微妙な位置にある。
 次にこれはすごいな、と思った点を二点。
 まず『多重人格』に挑んだことじたい凄いと思う。この作品は15年前に書かれたものであるため、当時は『多重人格』という言葉じたいが目新しく、『多重人格』を扱った作品も圧倒的に少なかっただろうにあえてこの題材に正面から突っ込んだ作者に一度敬礼しておこうと思う。
 そしてもう一点、御都合主義というか絶対ありえないような設定をさらっと書き上げてしまう作者の図太さというか肝の太さには脱帽するしかない。ここがすごい、と思った。
 人間誰でも他人に隠しごとをしているものである。この作品は他人の『秘密』を明かしていくところに面白さがある、きっと、……多分おそらくは。
 ミステリや多重人格ものが好きな人は一度この作品を読んでみるのも悪くないかもしれない。気に入らなかったからって責任は取れないが。