渡瀬草一郎『陰陽ノ京』@梅銘花御瑠

【あらすじ】
電撃初の陰陽師ストーリー! 時は平安、家業の陰陽道ではなくあえて文章道の道選んだ青年・慶滋保胤のもとに一人の男が訪れた。男の名は安倍晴明――いわずと知れた天才陰陽師である。 晴明は近頃都の現れたある外法師について調査を依頼しに来たのだったが、裏に別の思惑を持っていた。すなわち、天賦の才を発揮する保胤を再び陰陽道に引き戻すこと。そして晴明の思惑通り、保胤は外法師を巡る争いに巻き込まれ、そしてその果てに見たものは……! 平安時代に実在した慶滋保胤を主、安倍晴明を脇に据えた異色作、登場! 第7回電撃ゲーム小説大賞<金賞>受賞作品(アスキー・メディアワークスHPより)

【書評】
 本作の主人公は安倍晴明ではない。彼の師匠筋にあたる賀茂氏の一員・慶滋保胤である。が、慶滋保胤といえば『日本往生極楽記』の著者として名高い文章家であり、忠行・保憲・光榮と続く陰陽家の息子・兄弟・叔父でありながら、彼自身は陰陽家ではない。そういう、陰陽師モノの主人公としてはやや特殊な人物を中心に物語は展開する。
 物語の内容についてはあらすじをお読み頂くとして、私がこの作品を推す理由を少々述べさせて頂きたい。まず、一番初めに書いたように主人公が安倍晴明ではない。かつ、美青年でない。965年頃を舞台としているのに相応しい年格好、つまりは狸親父である。性格的には皮肉屋であったり、無頼であったりという形式を踏襲してはいるものの、やたらめったらなスーパーマンではない。(というより主人公の方がむしろ反則的なのだがそれは本編をお読み頂く。)こうして安倍晴明が脇役に回り、先に挙げた賀茂氏一族、また両家以外の陰陽寮所属陰陽師が活躍する。一般に陰陽師モノでは冷遇されがちな賀茂氏や他氏にまで筆を及ぼしているのが、個人的に非常に好印象であった。
 勿論、あくまでファンタジーであるから、史実とは違う点もある。しかしそれも、小説として違和感のない範囲にとどまっている。シリーズ全体としてはいささか派手な演出が目につくものの、そこは投稿作品として完結している事を考慮すべきだろう。美形晴明に辟易している方には(無論それ以外の方にも)是非一度手に取ることをお薦めする。