道尾秀介『ラットマン』@来八

内容(「BOOK」データベースより)
結成14年のアマチュアロックバンドが練習中のスタジオで遭遇した不可解な事件。浮かび上がるメンバーの過去と現在、そして未来。亡くすということ。失うということ。胸に迫る鋭利なロマンティシズム。注目の俊英・道尾秀介の、鮮烈なるマスターピース

感想
心なんて目に見えないから他人を理解するのは難しい。

ラットマンとは人間が何かを知覚する過程で、前後の刺激が知覚の結果を変化させてしまう現象に命名効果が加わることから起こるモノの見方のことを言う、らしい。
本書に一貫して見られたテーマがまさしくこのラットマンといえるだろう。

小説を読み進むにつれ『何となくこうだろうなぁ』と自分の中で凝り固まっていく事件の真相、正体が最後にあっさりと裏切られた感覚が非常に心地よかった。
しかしよくよく考えて見ると、くるりくるりくるくるりとひっくり返しが過ぎたようにも思えるし、万人が良かったと思えるようなオチではないだろう。

主人公の過去やスタジオで起きた事件を淡々と綴る文章にはあまり暗く深いどろりとした心情が見えるわけではなく、あくまで話を重視している小説である。そのため『私は悲劇に浸りたいの!』という方や『陰鬱な雰囲気を頂戴!』という方にはこの小説は向いていないかも知れない。

オチを気に入らないという人はいるかも知れないが、ゴミ箱に捨ててしまいたくなるほどつまらないと思う人はいないと思うので、読んでもあまり損したと思うことはないだろう。お暇な方は手に取って見てもよいのでは。