畠中恵『つくもがみ貸します』@秋乃

【内容】

お江戸の片隅、お紅と清次の姉弟2人で切り盛りする小さな店「出雲屋」。鍋、釜、布団と何でも貸し出す店ですが、よそにはない奇妙な品も混じっているよう。それらは、生まれて百年を経て、つくもがみという妖怪に化した古道具。気位高く、いたずら好きでおせっかい、退屈をもてあました噂超大好きの妖たちが、貸し出された先々で拾ってくる騒動ときたら……! ほろりと切なく、ふんわり暖かい、極上畠中ワールド、ここにあり。(本書裏表紙)



【感想】

この作品に出てくる付喪神たちは、多くの作品に見られるような妖怪とは少し違う。彼らは人と言葉を交わすことをしないのだ。
出雲屋にやってきた新入りの付喪神に対して彼らは「人とむやみに話すようなことはするものじゃない」と言う。彼らは姉弟の前でも好き勝手に噂話をしたり姉弟について発言したりするが、姉弟に話し掛けられればたちまち黙り込む。そしてしばらくすると、また付喪神同士でのお喋りに興じるのだ。多少の例外はあれど、彼らが人と会話することは決してない。この作品において、人と人ならざる者の間には確かな壁がある。
しかしそんな壁を感じさせないほど、付喪神たちからは親しみやすい印象を受ける。そして彼らに負けず劣らず、姉弟を始めとした人間たちが面白い。等身大の人物像でありながら個性豊かな彼らは見ていて飽きない。付喪神のいる店・出雲屋での日常、そこから広がる人間模様、徐々に明らかになってゆく姉弟と縁ある人物についてなど、見ごたえのある作品だった。