道尾秀介『カササギたちの四季』@黎明

【あらすじ】
 リサイクルショップ・カササギは、店員二人の小さな店だ。店長の華沙々木は謎めいた事件に商売そっちのけで首をつっこむし、副店長の日暮はガラクタを高く買い取らされてばかり。でも、この店には、少しの秘密があるのだ――。あなたが素直に笑えるよう、真実をつくりかえてみせよう。再注目の俊英による忘れ得ぬ物語(amazonより)。

【感想】
 直木賞受賞後第一作は、受賞作とは雰囲気をがらりと変えた少し捻ったライトミステリ。

 タイトルにあるように、本作は全四話の短編連作方式である。どの話でも店長華沙々木が事件の匂いを嗅ぎつけ、中学生の菜美がそれを後押し、副店長の日暮が真相を突き止めるという展開は変わらない。人の死なない日常の謎がメインとなるので全体的に明るく洒脱な雰囲気で話が進む。文体も軽くユーモラスであり、読後感も良い爽やかな作品である。

 本書で一番上手いと思うのが、華沙々木と日暮の設定である。物語の中においては探偵役は華沙々木であり、実際に事件を調査し、関係者の前で解決編までやってのける。しかしそれが事件の真相から遠く離れたものであるため、結局は副店長の日暮が真相を見抜くことになる。本書が捻ってあるのが、ここで探偵役を日暮にシフトさせるのではなく、華沙々木を探偵役に据えたまま、真実の方を華沙々木の推理に合わせるという点である。あらすじにある「あなたが素直に笑えるよう、真実をつくりかえてみせよう」とはこういう意味であり、菜美が持っている華沙々木に対する憧れを壊さないように日暮が暗躍するのである。これが本作のメインであり、こうした日暮を代表する目に見えない他者への気遣いや思いやりが本書の読みどころであろう。また、これを上手く表現するには提示する謎にも二通りの解釈(華沙々木の推理と真相)を用意しなければならず、読者に対して後者は勿論、前者にもある程度の妥当性を与えなければならない。しかし本書では驚きの真相とかびっくりするような展開はないものの、その点はきちんとクリアしており、やはり道尾はミステリを描くのが上手いと思う。

 気になった点としてはやはりインパクト不足というか、短編で話が終わってしまうのでもう少し凝った事件、真相が欲しくなってしまうところか。本書の雰囲気からすればこれくらい軽い方が合っているのだけれど、印象に残りにくい一冊になってしまっている。

 というわけで軽く読めて爽やかなミステリを探している方にはお勧めの一冊。