シェイクスピア「ジュリアス・シーザー」@ゆうゆう

あらすじ
 ローマの王、ジュリアス・シーザーガイウス・ユリウス・カエサル)がプルータスらによって謀殺される。この悲劇はプルータスらの暗殺にいたる葛藤と、その後の彼らの運命を描く。

 プルータスらはシェイクスピアの描く人間像の典型のひとつである。彼らは名誉欲、権力、愛憎、良心、信仰など、さまざまな感情や自身の中の規律に板ばさみになって苦しんでいる。彼らは常に最良の結果と幸せを求め、最も正しい事とは何かを捜し求めているのだ。自分以外の人間達との交流から、彼らはその時ベストだと思えるような選択を行う――それこそがシェイクスピアの書きたかったことである。彼らはそこで、最良の結果を求めて最悪の選択を行うのだ。なぜかといえば、タイミングが悪いからである。たったそれだけ、たまたまタイミングが悪かったから、彼らは得たかった最も良い事実の変わりに、自身の信じるものを失わなければならないのである。それは信仰であり、信頼であり、正しい国の理想であったり、友の幸せである。自分が人生を賭して得ようとしたそれが、ただタイミングが悪かったばかりに彼らは全てを失ってしまう。それがシェイクスピアの書く悲劇の一面である。
 プルータスは義と友人に従ってカエサルを暗殺する。しかしカエサルを思っていた友人が民衆に行った演説によって、民衆から逆に暗殺犯として追われる身になり、討伐軍を向けられて戦死する。彼らが戦死の間際に交わす言葉はこの作品をシェイクスピアの代表作の一つたらしめている。
「だから、最後の別れをしておこうじゃないか。キャシス! では、永久に、永久に、さようなら! もしまた二度と会えたらばだ、そうだ、笑おうじゃないか。」
 世界文学大系シェイクスピア★」筑摩書房 中野好夫訳 一九五九年発行
 彼らはただ、タイミングを逃したばかりなのだ。正しいはずのことをした彼らは、だから、笑って死んで行くのである。