堀井拓馬『なまづま』@みあ

激臭を放つ粘液に覆われた醜悪な生物ヌメリヒトモドキ。日本中に蔓延するその生物を研究している私は、それが人間の記憶や感情を習得する能力を持つことを知る。他人とうまく関われない私にとって、世界とつながる唯一の窓口は死んだ妻だった。私は最愛の妻を蘇らせるため、ヌメリヒトモドキの密かな飼育に熱中していく。悲劇的な結末に向かって……。(本書裏表紙より)

(***で囲まれた部分はネタバレを含みます)
第18回日本ホラー大賞長編賞受賞作。
文章のほとんどは主人公の内省に費やされており、面白く読めるものではない。
また、全体的に想像力のみで書いたという印象を受ける。
ヌメリヒトモドキによる社会への影響、と再三書かれているが、具体的な経済の打撃の説明などを加えてリアリティを出してほしいところである。
また、本文から想像される主人公は無口で暗く冴えない男性であることから、アヤナミ研究員の好意の起源が見えず不自然である。
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さらに、妻の完全人間近似固体復讐心にも疑問が残る。主人公からの「今愛しているのは妻ではない」という告白、および「最も効果的に妻を傷つけることのできる言葉、それだけで人を壊すことのできる一言」が、完全人間近似固体による主人公殺害の引き金となったことは、衝動的な動機として納得できる。しかし、その後1年間という長期にわたる主人公の再生作業のモチベーションには足りないように感じる。ヌメリヒトモドキとして復活させられた挙句に見捨てられた怒りが原因であるなら、主人公復活後に捨て台詞を残して去るという別れはあまりにあっさりしていると感じる。
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しかし、結末の意外性と、主人公は名前が明かされないばかりか一言も発しないという表現手法の奇抜さには目を見張るものがある。また、巻末の選評にもあるように作者が若いことから、むしろ今後の作品に注目したい。