西村則昭『アニメと思春期のこころ』@おさひさし

エヴァ」とは何であったのか?
なぜ思春期の子どもたちは、アニメに夢中になるのか?

 本書は、子どもたちのゆれる心の真実を、アニメを素材にしながら理解しようと試みた画期的な深層心理学的アニメ論であり思春期論である。(本書帯より)


 日本にはアニメがありふれており、年間百以上もの作品が生産されているという。
 冒頭にも書いたとおり、2004年に出版された本書は、アニメのファンであり臨床心理士でもある著者がカウンセリングの経験と分析心理学(いわゆるユング派)の視点からアニメを捉え、作品の中に隠された様々なメッセージを分析していくという形を取っている。
 章ごとにまずはアニメの解説から始まり、次にそのアニメに関わる思春期の子どもたち(不登校神経症など様々な問題を抱える)とのカウンセリング経験が挿入される。子どもたちはアニメに熱中していたり、とあるキャラクターとの共通点が多かったりと様々で、中には思春期の心のまま大人になってしまったという人も登場する。その後に、いよいよ作品の分析が始まるといった具合である。分析されるアニメは『美少女戦士セーラームーン』や『スレイヤーズ』、『新世紀エヴァンゲリオン』、『serial experiments lain』、『少女革命ウテナ』、『カードキャプターさくら』など多岐にわたる。これら分析は実によくなされていて、読む分にはとても面白い。特に帯にも書かれている『エヴァ(新世紀エヴァンゲリオン)』を取り扱った章では、最もページ数が割かれており、これでもかというほどにボリュームたっぷり、隅々まで分析されている。
 
 しかしながら読み進めていくと、ある種の面倒くささを感じてくる。分析の内容が時に主観的になりすぎたり、こじつけとしか思えないような無理矢理さが出てきたりする。特に『エヴァンゲリオン』の章では著者本人が「『エヴァ』の洗礼を受け」たと記していることからも、大分補正が入っているのではないかと思えてしまう。まるで一部の「おたく」のように「『エヴァ』が最も優れたアニメである」と言わんばかりの文章であった。『エヴァ』は確かに良くできたアニメではあるが、実際のところ先駆となる様々な作品からいいところ取りをした上で、フロイト精神分析のエッセンスを足したものであり、それほど斬新であったわけでもない(しかも当時は深層心理学ブームだった)。

 私もアニメや映画は好きではあるが、作品に登場する様々な象徴やその意味をむやみに分析してしまうのは良くないと考えている。一度はっきりと分析して固定してしまうと、自由な楽しみ方ができなくなってくる。アニメや映画は見た人の数だけ思い入れがあり、解釈のある、もっと自由なものでなければならないのではないか。