神林長平『戦闘妖精・雪風〈改〉』@猫町

あらすじ

 南極大陸に突如出現した超空間通路によって、地球への侵攻を開始した未知の異星体「ジャム」。反撃を開始した人類は、「通路」の彼方に存在する惑星フェアリイに実戦組織FAFを派遣した。戦術戦闘電子偵察機雪風とともに、孤独な戦いを続ける特殊戦の深井零。その任務は、味方を犠牲にしてでも敵の情報を持ち帰るという非情かつ冷徹なものだった――。発表から20年、緻密な加筆訂正と新解説・新装幀でおくる改訂新版。(本書裏表紙より)

感想

 この小説は人間と未知の敵であるジャムとの戦いの物語である。しかしこれは単なるスペースオペラ、つまり戦闘機が宇宙人とドンパチやる、というだけの話ではない。本書の本質的テーマは人間性とは何か?ということである。

 この小説の特筆すべき点は、敵であるジャムは無機物でできた生命体であり、有機物である人間を生物として認識していないということだ。人間が有機物のみを生物とみなすのと同じく、ジャムも無機物である機械のみを生物だと思っている。つまり、ジャムは自分たちの敵は機械である戦闘機のみであり、戦闘機に付着しているあの有機物は何なのだろうか?と思っているのだ。

 また本来戦争というものは人間の本能を剥き出しにさせるものだが、高度にテクノロジーが発達した本書の世界観においては、戦闘機の自動化、遠隔化が進んでいる。そして本書に登場する戦闘機、雪風人工知能を搭載しており、経験を積むほどに雪風は自分の判断で行動するようになる。時にはパイロットを無視した動きをしたりして、人間が搭乗する必要がなくなってしまう。そして最終的に、そもそも戦いに人間は必要なのか?という疑問に辿り着く。

 戦闘シーンが専門用語だらけであるという点はあるものの、そういった描写はストーリーに大して影響はないので読み飛ばすなりなんなりしても構わない。むしろそれ以外の思索的な内容こそがこの小説の肝なので、そのような内容に興味があるなら手にとってみてもいいのではないかと思う。