中島らも『こどもの一生』@刹那

[あらすじ]瀬戸内海の小島をレジャーランドにするためにヘリを飛ばし下見に来た男二人は、セラピー施設に治療のためと称して入院し一週間を過ごすことになった。しかしすでにそこには女二人、男一人の患者――クライアントがいた。五人は投薬と催眠術を使った治療で、こども時代へと意識は遡る。三分の二は笑いに溢れ、最後の三分の一は恐怖に引きつる。鬼才・中島らもが遺した超B級ホラー小説。(本書裏表紙より)


 それはそれはお腹一杯になる話であった。
 精神病の治療として、「こども」に戻ったクライアントたちによる共同生活。いかにもないじめっこの傍若無人な振る舞いに、堆積していく生理的嫌悪感。そんないじめっこへの「こども」ならではとも言える残酷な報復には、「やりすぎだろ」と辟易する。またそれらすべてを、一線を引いたところで観察日記(カルテ)をつけながら静観する医者と看護師の正体不明な気味の悪さ。さらに、それらを行っている全員がいい年をした大人であり、それなりの社会的地位を持つ人間であるということをちょくちょく思い出させられてはシュールな滑稽さが滲む。そして、「あれ、いつからこんな展開になったのだろう?」と気付いた時には、グロテスクなサイコホラー展開にあっけにとられつつも恐怖する。
 説明不十分でラストが少し物足りなく、読後も決して気分のいいものではなかったけれど、読んだ満足感だけはものすごくある作品である。