うえお久光『紫色のクオリア』@猫町

あらすじ

 自分以外の人間が“ロボット”に見えるという紫色の瞳を持った中学生・毬井ゆかり。クラスでは天然系(?)少女としてマスコット的扱いを受けるゆかりだが、しかし彼女の周囲では、確かに奇妙な出来事が起こっている…ような?イラストは『JINKI』シリーズの綱島志朗が担当。「電撃文庫MAGAZINE増刊」で好評を博したコラボレーション小説が、書き下ろしを加え待望の文庫化!巻末には描き下ろし四コマのほか、設定資料も収録。(「BOOK」データベースより)

感想

 ライトノベルながらSFとしても高い評価を受けている本作であるが、小難しい理屈をうだうだ説明しているわけではなくエッセンスとしてSF要素を入れる程度に留められている。そのため非常に読みやすく、普段そういったジャンルを手に取らない人でも物語に入り込みやすいと思われる。

 そしてなんといってもこの小説の魅力はそのスピード感で、最初の設定を用いて疑似科学的アプローチを繰り返している内にいつの間にかとんでもない地平に連れていかれるという点にある。具体的なストーリー展開については余計な知識がない方が楽しめると思うので割愛するが、後半百ページほどの展開はグレッグ・イーガン的とも言われるほどの壮大で、大胆な切り口から描かれた内容になっている。

 またこの作品で提示された結論は、決して派手ではないけれど、昨今の同じようなテーマを扱った作品では取り扱われていないような角度からの解決が行われていて、それも一見の価値があるように思う。