辻村深月『ツナグ』@刹那

あらすじ
一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者(ツナグ)」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員……ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。(本書裏表紙より)


感想
 近々映画が公開される連作長編小説。生者が死者と会えるのは1度だけであり、死者もまた生者と会えるのは1度だけ。互いに機会は一度だけというシビアな条件のもと、死者と生者との再会を仲介する「ツナグ」。この連作集は、最初の二作は独立した生者と死者の物語、三作目から、「ツナグ」に依頼する生者と「ツナグ」の関わりが描かれ始め、ここから最終話の「ツナグ」自身の物語へと進んでいく構成になっている。

 死者と生者の物語というと、そのありえない設定のためにふわふわとしたファンタジーに考えがちだが、本書においては出てくる生者と死者の心情や感情がきちんと描かれているため、不思議と地に足がついたようなリアリティが感じられる。
 その中でも、死んでしまった人にまた会いたいと思う理由は単純ではない。だからこそ会ったからといって必ず幸せな結末が待っている訳ではない。生者はこれから生きていくために死者を利用するのか。それでは生者の傲慢ではないか。死者は生者のためにいていいのか。そもそも、死者は誰のためにいるのか。「ツナグ」という仕事を進めていく上で浮かぶ歩美の疑問には、端から読んでいるだけのこちらまで考えさせられる。

 また、それまで第三者的な立場であった「ツナグ」が前面に出てくる「使者の心得」ではそれまでちょいちょい出てきていた謎の真相が明らかになり、ミステリとしてもそれなりに楽しめるようになっているように思う。個人的には、生者と死者の物語としてまとめるなら、最後の「使者の心得」は蛇足のようにも思えた。それまでの物語をすべてつなげる総集話として必要な話なのだろうが、それによって本書全体の印象が「ツナグ」の物語なんだか生者と死者の物語なんだか、どっちつかずで曖昧になってしまったように思う。十中八九前者が正しいのであろうが、後者を基本として、「ツナグ」そのものの物語は単行本化に伴うエピローグ追加などといった形でさらっと触れる程度にとどめておいてもよかったのではないかと思わなくもない。 あくまで個人的に。