野村美月『"文学少女"と死にたがりの道化師』@祈灯愁


あらすじ
「どうかあたしの恋を叶えてください!」何故か文芸部に持ち込まれた依頼。それは、単なる恋の代筆のはずだったが……。
物語を食べちゃうくらい深く愛している”文学少女天野遠子と、平穏を愛する、今はただの男子高校生、井上心葉。
二人の前に紡ぎ出されたのは、人間の心が分からない、孤独な”お化け”の嘆きと絶望の物語だった――!
野村美月が贈る新味、口溶け軽めでちょっぴりビターな、ミステリアス学園コメディ、開幕!!
(本誌裏表紙のあらすじより)

書評(ネタバレ注意)
物語の始めは主人公井上心葉とその先輩天野遠子のやりとりで始まる。
主人公はあらすじにも書かれてある通り、ライトノベルにはありがちな平穏万歳な男の子である。平穏を好むのは過去のトラウマによるもの。
この部分だけ見てみると、典型的な物語が展開されていくかと思っていた。しかし、冒頭で大きなインパクトを与えられる。
天野遠子が物語を食べるのだ。そのままの意味で。本からページをちぎって。ヤギみたいにむしゃむしゃと。
キャラ付けは素晴らしくできていたと思う。
この話の中でよかった点は、太宰治の作品についてのイメージが変わった点だ。この物語では太宰治の作品が題材として取り扱っており、特に「人間失格」について書かれている。
太宰治の作品を最後に一言ずつ言い表すさまを読んでいると、太宰治の作品を読みたくなってくる衝動に襲われる。この物語が終わったら一度読んでみようと思った。
他にも、ライトノベルにつきものな恋愛を思わせる描写も存在し、興味がそそられた。
この話の中で悪かったと個人的に思う点は主人公の悲観的な思想にいまいち入り込めなかった点である。
自分が強い挫折を味わっていないだけかもしれないが、極端にある行動について恐れる描写は僕は入り込めなかった。
それでも読み進めるのにはそれほど苦にはならなかったので、僕がほんの少し引っかかった点としてとらえてもらえると嬉しい。
話の組み立てとしては、現在の車軸となる物語を大本に、度々主人公以外の独白が挟まれる感じである。
その独白ははじめは不可解のままで、読み進めていくとこの人が言っているものなのかなと思わせ、最後にひっくり返されるものであった。
僕は普通に作者の術中にはまっていた。それはそれで悔しいのですが、最後に語られる真実はただのライトノベルではないと思わせるものがあった。よいミスリードだった。
全体的にはほろ苦く、少しライトでない部分がありつつも最後にはわずかな希望が残される、そんな一風変わったライトノベル
気軽にも読め、太宰治にも触れられる、この本を僕はおススメをする。