似鳥 鶏『ダチョウは軽車両に該当します』@刹那

あらすじ
県民マラソン大会のコースを駆け抜けてくるのは「ダチョウだって?」――そして発見された焼死体。捕獲したダチョウと被害者とをつなぐものとは? キリン飼育員・桃くんにツンデレ女王・鴇先生、変態(?!)・服部くん、アイドル飼育員・七森さんら、楓ヶ丘動物園の怪しく愉快な面々が活躍する動物園ミステリー第2弾!(本書裏表紙より)


感想
 まさかの二回連続です。筆者としても、連続で同じ著者の作品を扱うのはいかがなものかと思います。ですが新作が近い周期で出たので仕方ないのです。筆者はこの著者の作品がとても好きなのです。
 はい、言い訳はここらにしておいて、本作の書評に移ります。
 本書は『午後からはワニ日和』に次ぐ、楓ヶ丘動物園シリーズの2作目です。2作目と申しましても、主人公や設定を同じくしているだけであり、前作を読んでいないと楽しめないということは決してありません。前回の書評(*1)でも声高に主張させていただいたように、一作一作の完成度が非常に高く、きちんと書き切るという似鳥クオリティ(*2)を今作でも如何なく発揮されております。
 内容に関しましては、観に行った県民マラソンに乱入してきたダチョウの捕り物劇から始まる事件。はじまりはそんな微笑ましい(訳がありませんが)事件だったにもかかわらず、桃くんの遭遇する事件はどんどん激しく陰湿でヘビーなものになっていきます。
 合間合間に挟まれる動物たちの愛らしい描写や豆知識に癒され、ずいぶん中和されはするのですが、だからこそ動物たちと対比されてしまい、犯人達の利己的さが際立っているように感じます。傲慢さや、醜悪さ。そういった人間の負の側面を見せつけられるようで、終わってみるとずいぶんハードで社会派な物語だったと思います。終わり方も、これからこのダチョウがどうなってしまうのかを考えると、結構後味が悪いな、と感じてしまうかもしれません。
 ですがそんな通り一遍の感想を吹き飛ばしてしまうくらいに服部くんwithディオゲネスの破壊力がすごいです。今作で、もはやこのシリーズは服部くんなしでは語れるまいと(勝手に)思うくらいに強烈な印象と爆笑をかっさらっていきました。今作は鴇先生の過去に深くかかわる物語のはずなのに、語ろうと思うと何故か服部くんがしゃしゃり出てくるのです。
「感想は?」「服部くんが変態……もとい強烈だった」
「印象的だったのは?」「服部くんが押しつけるように渡した小切手」
「驚いたのは?」「服部くんのGPSのくだり」
「やられたなあ、と感じたのは?」「ディオゲネスが最後に役に立ったとみせかけてそうでもなかったこと」
「服部くんばっかじゃねえか」「Σταματα、ディオゲネス!」
 てなもんです。正直ひどいです。
 お気づきの方がいると嬉しいのですが、前回(*1)及び今回の書評は、個性的と評判の著者によるあとがきの文体をまねて書かせていただいております。私め程度の拙い文章力では無理かもしれませんが、そういったところからもこれらの本の魅力を感じ取っていただければ、と思います。
 読んだことのない方にはほとんど分からないような感想を書いてしまいました。取り扱う事件は重いものの、文体は変わらずライトでサクサク読み進めることができ、また作者による絶妙なタイミングで挿入される注釈も健在。個性的な登場人物に、動物園という設定ならではの豊富な動物描写や果ては三角関係(四角かもしれない)まで楽しめる、お得な一冊です。「読んで損した!」となる本ではありませんので、是非お勧めしたい一冊です。


(*1)「似鳥 鶏『昨日まで不思議の校舎』@刹那」のこと。
(*2)筆者による造語。なお敬称略。