相沢沙呼『午前零時のサンドリヨン』@刹那

あらすじ
ポチこと須川くんが一目惚れしたクラスメイトの女の子、不思議な雰囲気を纏う酉乃初は、凄腕のマジシャンだった。放課後にレストラン・バー『サンドリヨン』で腕を磨く彼女は、学内の謎を抜群のマジックテクニックを駆使して解いていく。それなのに、人間関係には臆病で心を閉ざしがち。須川くんは酉乃との距離を縮められるのか――。“ボーイ・ミーツ・ガール”ミステリの決定版。(本書裏表紙より)


感想
 高校を舞台にした日常ミステリ、と単純に言い切ってしまうのは軽く躊躇してしまうような内容でした。ミステリはミステリですが、どちらかといえば高校生の繊細な心の機微を描く青春ミステリ、という方がよりしっくりくるように思います。
 仕事としてマジックをしていて人付き合いが不器用な酉乃さんと、そんな彼女とお近づきになりたい須川くんが、身近なミステリーを解き明かしながら距離を縮めていきます。ミステリ的な面白さとしては尻上がりな印象。一見してバラバラの問題を解決していると思いきや、それらすべてをひっくるめたひとつのミステリーが潜んでいる構成はよく考えられているなあと単純に感嘆いたしました。各作品を跨ぎながらの情報のちりばめ方もちょうどいいバランスで心地よかったです。
 軽い語り口で難しくないものの、いじめの問題が絡んでくるのもありすこし息苦しく、日常の謎にしては少し重たいかなあと感じます。思春期の多感さと、本当の自分と周りが感じてる自分との違いに葛藤するという、悪く言えば思春期に陥りがちな独りよがりの悩みは、分からなくないだけにリアルで、どことなく苦いものを残していきました。ただすくい取り方が若干浅いように感じたのもあったのか、ラストのシーンでそれを補うかのような展開に飲み込まれ、うやむやになってしまいましたが。
 話は変わりますが、よく言えば繊細、悪く言えばなよなよしている主人公、須川くんのもやもやとした語り口は、読者を選んでしまうところかと思います。この主人公を許容できるかが楽しく読めるか否かのポイントのひとつです。私個人としましてもなかなか乗ることができませんでした。序盤はストーカーまがいのことをしているし、推理場面でも酉乃さんのマジックからヒントを得て自分で解決するのかと思いきや、マジシャン兼安楽椅子探偵の酉乃さんにすべて丸投げする図にうんざりさせられたり。ですがラストでいきなり草食系軟弱男子から激甘ポエマーにクラスチェンジし、砂糖を大量にまぶされた生クリームをたっぷり砂糖を溶かしたホットチョコレートとともに口に突っ込まれたかの如く怒涛の甘いクリスマスを演出してくれます。この年で読むのは正直つらいものがありましたが、まあなんか……うん。いいか別に。と何故か須川くんというキャラに納得させられました。
 描かれるマジックの描写が秀逸で、自分の脳内で鮮やかな映像として浮かんできたので、映像化したらいい雰囲気の作品なんだろうなと思います。予測できる内容なのだけれど予測したくない筋立てで、謎解きはするが種明かしはしないという設定も新鮮で面白く、非常に読みやすい作品でした。雰囲気や小道具の使い方もよく、主人公の語りに慣れてしまってからは、楽しく読めました。
 がっつり甘くて、なおかつミステリも楽しみたい! という欲張りな方にお勧めです。ついでに言うと、異様にふとももの描写が多いので、ふとももが好きな方は一読してみると楽しいのではないかなと思いました。