貴志祐介『硝子のハンマー』@香嵐

スペシャルドラマの制作が決まったそうなので記念に書評します。

あらすじ
日曜日の昼下がり、株式上場を間近に控えた介護サービス会社で、社長の撲殺死体が発見された。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、窓には防弾ガラス。オフィスは厳重なセキュリティを誇っていた。監視カメラには誰も映っておらず、続き扉の向こう側で仮眠をとっていた専務が逮捕されて……。弁護士・青砥純子と防犯コンサルタント・榎本径のコンビが難攻不落の密室の謎に挑む。日本推理作家協会賞受賞作。(本書裏表紙より)


感想
昨年春の月9ドラマで放送されていた『鍵のかかった部屋』の原作小説の第一作目です。続きとして『狐火の家』『鍵のかかった部屋』があります。
全部の作品に共通するのが事件は『密室』で起こること。それをいかに解いていくか、にぐいと引き込まれる作品です。密室、不可能犯罪、理詰めと本格ミステリーにふさわしく、ミステリーが好きな人にはぜひ読んで欲しいと思いました。

正義感が強いが時折すっとぼけた推理を展開する新米弁護士の青砥と、ずっと淡々としていて裏の読めない防犯コンサルタントの榎本。青砥は一般人の思考に近いため共感できる人物です。一方の榎本はミステリアスな雰囲気を醸し出す。彼の正体は……。ばれそうでばれない榎本の立ち回りも見どころです。登場人物は他の作品に比べて目立った特徴が多くはないものの、トリックに埋もれてしまわない個性があり表現は見事なものだと思いました。
また作品には多くの防犯系列の専門用語(?)が登場します(例えば『サムターン』など)が、その方向についてはさっぱりな青砥と読者に対し、プロの榎本が懇切丁寧に説明する、といった具合に、作中では説明も詳しく描かれているため、読みにくい、という印象はあまりありませんでした。それに応じてトリックも登場しますが、これがすごくこだわったものでなかなか発想しがたく、読み終えた時にはこんなことができるのか、と感服しました。

昨今短編ミステリーが増えている(これは私が勝手に思っているだけなのですが)なかでここまでがっつりとくるものは珍しく、その分読みごたえがあります。続編の二作品は中編、短編ながらも『密室』というコンセプトは一貫しており、それを次々と解いていく青砥、榎本のコンビも健在です。シリアス展開ばかりかと思えば、シュールで滑稽な話もあるので飽きずに楽しめると思います。


おまけ
ドラマは原作にだいたい忠実(登場人物が一人多い以外)なので本を読んだ後に観ると、トリックがわかりやすいかなと思います。時間に余裕がある方は是非。