神永学『心霊探偵八雲』@窪屋

あらすじ
学内で幽霊騒動に巻き込まれた友人について相談するため、晴香は、不思議な力を持つ男がいるという「映画同好会」を訪ねた。しかしそこで彼女を出迎えたのは、ひどい寝癖と眠そうな目をした、スカした青年。思い切って相談を持ちかける晴香だったが!?
女子大生監禁殺人事件、自殺偽装殺人……次々と起こる怪事件に、死者の魂を見ることができる名探偵・斉藤八雲が挑む、驚異のハイスピード・スピリチュアル・ミステリー登場!!
(本誌裏表紙より)

感想
私はこの本を初めて見たとき、そのタイトルに大きな衝撃を受けた。ミステリーの王道である“探偵”という名を冠しながら、その前に“心霊”というミステリーにおいて禁忌ともいえる言葉が付いていたからだ。私は急いでその本を手に取り、裏表紙のあらすじを確認したが、やはり死者の魂という超自然的言葉が見られた。死者の魂を見ることが出来るならば、犯人を知ることなど容易いのではないか。どこに推理をする要素があるというのだろうか。ミステリー好きである私は、ミステリーの常識を覆すようなタイトルとあらすじに心惹かれ、この本を買うことにしたのだった。

物語は晴香や他の人が持ち込んだ事件を八雲が解決するという至って普通の推理小説だ。しかし、推理に用いるヒントは死者の魂からの情報という一般的な推理小説とは違うものが関わってくる。八雲は他の人には見ることが出来ないものからも事件についてを知り、それらを解決していくのだった。死者の魂という超常現象的な事象が関わってくるものの、推理小説の枠からははみ出しておらず、また、ミステリーのタネについても納得ができるものとなっているので、違和感を感じることなく読むことが出来た。この物語を読んだとき私は、推理小説ではあるものの、事件の解決だけでなく、八雲や晴香など登場人物の成長や変化についても物語の重要な部分だと思った。

文章は情景描写が細かいため、頭の中で状況がイメージしやすい。また、心情描写もしっかりと書かれており、それぞれの登場人物の思考や行動についても読み取りやすかった。そのため読み進めていくごとに物語の中に引き込まれていくような感じがし、物語の続きを楽しみにしながら読むことが出来た。

心霊探偵八雲はシリーズものであり、単行本で9巻(特別編含め10巻)、8巻までと特別編は文庫化されている。1冊ごとに一段落するため、興味があれば『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』を是非手に取って読んでもらいたい。心霊なんてミステリーじゃない、と思っていた私が引き込まれた物語に、あなたも引き込まれればと思う。