お題「ナイフ」「道場」「カクテル」@坂野裕人

 時刻は午後七時、とある道場にて、戦いの火蓋が切られようとしていた。
「さあ、ついにこの異種格闘技トーナメントも残すは決勝戦のみとなりました!」
 観客が作り出す熱気は、道場全体が燃えているかのように熱く、轟々と唸りをあげている。
「選手の入場です!」
 道場の中央に設けられた場所、といっても白テープで四角く囲ってあるだけなのだが、そこに二人の選手が入場し、互いににらみをきかせていた。
「決勝戦は『絶対的暗殺者森田』VS『癒しのバーテンダーダニエル』だ! これは目が離せませんよ! 今回は主催者であり、前大会の優勝者でもある『経済の荒波を乗りこなす男パララロ』さんに解説者として来ていただいています。よろしくお願いします」
「よろしくだよ」


「さて、決勝戦ですが、この戦いどう見ますか?」
 パララロは「んー」と考えるそぶりを見せた。
「まず、森田さんだけど、言うまでもなく暗殺の腕前は抜群だよ。今大会もその腕前で対戦相手を倒して決勝まで上りつめているからね。でも、それだけじゃないよ。例えば、準々決勝の相手『迫りくる可愛さ川合』さんの誘惑にも負けなかったよ。それほど強い精神力を持っているところもポイントだよ」
「なるほど。では、ダニエルさんの方はどうなのでしょうか?」
 これまたパララロは「んー」と考えるそぶりを見せた。
「次に、ダニエルさんだけど、言うまでもなくカクテル作りの腕前は抜群だよ。今大会もその腕前で対戦相手を倒して決勝まで上りつめているからね。でも、それだけじゃないよ。例えば、準々決勝の相手『唸るベアーパンチKUMA』さんという、動物に対して、言葉で戦意を喪失させたよ。それほど素晴らしいトークスキルを持っているところもポイントだよ」


「なるほど。ずばり、どちらが勝つと思いますか?」
 これまたパララロは「んー」と。
「正直分からないよ。河合さんの試合中、会場内の男性は彼女の魅力にうっとりしていたよ。でも、KUMAさんだけは興味なさげに鮭を丸齧りしていたよ。そのKUMAさんですらダニエルさんの言葉に口説かれたのだから、彼の話術は河合さんの魅力を凌駕すると考えられるよ。その話術に落ちない精神力を森田さんが持っているかがこの戦いのポイントだよ」
「なるほど。決勝では心理戦が見どころというわけですね!」
「そうだよ」
「さあ、まもなく試合開始です!」
 森田とダニエルが握手を交わし、再び距離をとる。それを見た観客が次第に静かになり、やがて場内は静寂に包まれた。
 そして、戦いのはじまりを告げるゴングが鳴り響いた――。

〜Not to be continued〜