お題「諦め」「お好み焼き」「パソコン」@師父

 やあやあ、なんて気軽さで俺のテリトリーに侵入してきた奴は、ショバ代と言って飲みかけのコーラのペットボトルを炬燵に置いた。元々500 mLの、残り三割。
「おう、それがショバ代なら飯代は別に払うんだよな」
 終電を逃したからと同情する気はない。というかコイツが口を付けたコーラなんて迷惑なだけだ。
「あー、じゃあ、これで」
 差し出してきたスティック状のお菓子。これも三割ほどしか残っていない。
メントスなんぞで一食分になると思うのか? コーラに突っ込んで掛けるぞ?」
「楽しそうだな、それ。やろうぜ! 一回やってみたかったんだ」
 妙な奴だ、と思ったが、許可が出たので即実行。ペットボトルの飲み口は小さいからメントスを握り潰して突っ込み、躊躇なくヤツへと向けた。
「あ、そういや鞄に入れてたから大分振っちゃったろうな」
 ダバダバと中途半端な勢いで流れ出すコーラの泡は、ペットボトルを伝って俺の腕へ。袖口から入って来たそれは、やはり中途半端に冷たくて、泡が弾ける感触が鬱陶しい程度にはくすぐったかった。



「なー、腹減ったー」
 風呂から上がるや否や、そんな声が耳に障る。ので、パソコンの電源を入れた。
「人肉の調理法教えてくれたら手早く処理してやる」
「牛豚鳥くらいしか料理したことないわ、悪いな。……あ、一回だけ鴨鍋した事あるな」
 こいつは天然で言ってるんだろうかと頭を抱えながら、ホットプレートを指差す。
「食事代は労働で払え」
「あいあい」
 冷蔵庫から食材を取り出して押し付けると、奴は不恰好な敬礼をして、手早く作業に取りかかった。すぐに、じゅうじゅうという音がしてくる。お好み焼きだ。お好みで何を入れたっていいんだから、人肉を入れたっていいはずだ。
と思いながら食べる。うん、お好み焼きにはやっぱり豚肉だ。
「食事中にパソコンを弄るのは良くないんじゃないか?」
「諦めろ。俺は俺のペースでしか動かん」
「おう、諦めた」
 何なんだろう、コイツは。今まで幾度となく思ってきたその問い。それを遠慮するような間柄ではないだろうと思って、そのまま口に出す。
「お前も物好きだよな」
「俺も同じ事思ってた」
「は? 俺は大体のモン嫌いだぞ?」
「そーゆーとこが楽でいいんだ」
 嫌われるのが楽でいいとか可哀相な奴じゃないか?
「上辺ばっかりの人付き合いって疲れるじゃん? 俺、他の人が何思ってるかとか全然読めないしなぁ。お前はさ、嫌な時はほんっとーに嫌そうな顔するから」
「ガキだなぁ」
 ああ、そう。コイツはガキっぽいから、一々格好付けなくても付き合っていける。馬鹿やっても劣等感に苛まれなくて済む。
「絨毯汚す事も考えずメントスコーラぶちまける奴に言われたくないよ」
「ははは、そうだな」
 取り敢えず、子供らしくお好みで、コイツのお好み焼きにメントスを埋め込んでおくことにした。
いつしかパソコンは閉じられていた。