お題『針』『象』『仙人(仙女)』@窪屋


 仙人の下へ一人の男が訪れた。男は言う。
「仙人様にお尋ねします。仙人様のお力で象を針の上に立たせることは、出来ますでしょうか」
 仙人はいとも容易いと答えると、針と象を呼び寄せた。そして現れた象を見事、一本の針の上に立たせたのだった。とがった針は、象の足に刺さることなくその体重を支えている。おぉと男が手を叩くのを見て、仙人は上機嫌で言葉を発した。
「どうじゃ、これが仙人の力じゃ。このようなことはお前達には到底出来まい」
 ハッハッハと笑う仙人を余所に男は答えた。
「果たしてそうでしょうか」
 そう言って男は四本の針を取り出すと、それぞれ象の足の前に置き、象を一歩前に進ませた。象は針の上に見事足をのせて立ち止まる。
「これでも針の上に立っていると言えます。たしかに仙人様のお力は凄いものなのでしょう。だが、こんなことも気付けないで自分の力に傲る貴方は、所詮その程度ということです」
 男はそれだけ言うと足早に仙人の前から立ち去ってしまった。あとには憤慨する仙人だけが取り残されたのだった。