卒業式の後、私たち夫婦と担任の先生は茜色に染まる教室に来た。なんでも、さくらの私物がロッカーにまだ残っていたらしい。
教室に入って一番に目に入ったのは、黒板に書かれた「卒業あめでとう」の文字とそれを取り囲む寄せ書きだ。
子供たちがここでかけがえのない時間を過ごした。それがよくわかる。出来ることなら、さくらも生きて一緒に卒業させてあげたかった。
「ここがさくらさんのロッカーです」
ロッカーは教室の後ろに並んでいた。私は先生に促されてロッカーの扉を開ける。
「これは……」
「これはすべて生徒たちが彼女にと置いていったんです。手書きのメッセージや手紙。彼女が好きだった本やCD。その他彼女とつながりのあった子が思い思いの品を置いていったんです。なかには鉛筆や石けんなんかもあるのですが、きっとそれもさくらさんとの思い出の品なんです。もしよろしければ、引き取っていただきたいのですが」
美しく咲いて人々を魅了し、そして短い命を散らしてしまう桜の花。さくらも短い命のなかで美しく生き、みんなに愛されたのだ。
妻も私も感涙した。
「「もちろんです」」
「そうですか、感謝します。あの子たちもきっと喜びます」
私たちは先生に丁寧にお礼を言い、学校をあとにした。
最寄りの駅までの道は桜並木になっている。
私たちはゆっくりと歩く。自慢の娘に思いをはせて。