お題『図書館』『鍵』『ストラップ』@窪屋 綾人

『私は図書館でストラップの付いた鍵をなくした』
 一行だけポツンと書かれたノートを見て、早織はぼやく。
「なにこれつまんない!」
 そう言って彼女は手元のノートをパタンと閉じた。表紙に『三題噺帳』と書かれているそれは、彼女自身が課した毎週の課題である。文芸部に入部した彼女は、自らの文章力を向上させるため、毎週一つ三題噺をそのノートに書いているのだ。だが、今日のお題はあまり彼女の好みでなかったようだった。
「一文でお題全部使えるのなんて面白くないよ」
 そう言って彼女はノートを机に放り投げた。はぁともう一度ため息をつくと、何か決心したようによしと言って立ち上がる。
「せっかくだし図書館に行こう」
 言うが早いか彼女は素早く身支度をすると、最後に机の上に置いてあった鍵束をつかんだ。カチャっと軽い音をたてて彼女の手に収まった鍵束は、編み込み紐のストラップで纏められている。カラビナを通しているそのストラップは彼女のお気に入りだった。ズボンのベルトにそれを付けると、彼女は図書館へと足を向けた。

 図書館で気になっていた本を見つけ意気揚々と帰宅した早織が、鍵をなくしたことに気付くのはもう少し後の事であった。