お題『紙』『モグラ』『嫁』@針古野虎

会社からの帰り道。私は久しぶりに商店街のゲームセンターに寄った。
家に帰りたくないからだ。私たち夫婦の間はとうの昔に冷え切ってしまっている。
今は妻と同じ家にいる事だけでも苦痛だ。私は彼女と離婚したい。
しかし、彼女はそれを認めてくれない。
「世間体が……、これからの生活が……」などと言って離婚届けを書いてくれない。
私が離婚届を差し出すとすぐさま破り捨ててしまう。
何度も同じことを繰り返す内に私はもう彼女の離婚することを諦めた。
彼女と共に過ごす時間を出来るだけ減らすことにした。
そういうわけで、私はここ最近同僚や後輩と飲みに行ったりして時間をつぶしていた。
しかし、今日は皆、用があるということで一人鬱屈な気分で帰途についた。


そして、どこか時間をつぶせる場所を探していたらこのゲームセンターに流れ着いたのだ。
店の中では若い青年たちが楽しそうに騒いでいる。彼らには私のような悩みはないのだろう。
私のような年齢でもできるゲームを探して店の中を歩き回る。
店の奥の方、喧騒から離れた場所でそのゲームを見つけた。その場所にはほとんど人が居ない。
それもそのはず、ここにあるゲームは青年たちがしているゲームと違い激しい音も煌びやかな光も発していない。
私は昔ながらのモグラ叩きゲームの前に立った。横に鰐を叩くゲームもあるが私の世代はこちらだ。
私は財布から百円を入れて、備え付けのハンマーを手に取る。
モグラが次々と出てくるのをハンマーでポコポコ殴っていく。
出てくるモグラに妻の姿を重ねて、ストレス解消にポコポコ殴っていく。
すっかりはまってしまい財布の中の百円玉が無くなるまでやり続けた。
終わった頃には背中にうっすらと汗をかいていた。
私はスッキリした気分でゲームセンターを出る。
時間はまだ八時だ。でも足は自然と自宅へ向かっていった。いつもの重い足取りじゃない。


破られてもいい、家に帰ったら妻にもう一度離婚届を渡そう。