穂村弘「整形前夜」@青桐李

あらすじ

だが、と私は思う。日本女性の美への進化もまだ完璧ではない。例えば、踵。あの踵たちもやがては克服され、「おばさんパーマ」のように絶滅してゆくのだろうか。かっこ悪い髪型からの脱出を試み、大学デビューを阻む山伏に戦く。完璧な自分、完璧な世界を強く求めながら、平凡な日常の暴走に振り切られる生ぬるき魂の記録。

感想

整形前夜。

このエッセイ集のタイトルだ。実に魅力的である。私は未だ整形未経験であり今後する予定も一応無いが、整形という行為にはとても惹かれている。

醜い自分を捨てて新しい何者かへ変貌する、その前夜。期待と不安の混じり合う「最後の」夜。

大学の学生選書コーナーでこのタイトルを見た時にここまで想像して、気づけばふらふらとカウンターで貸出手続きを済ませていた。私はまさにこの本に、タイトルに一目惚れしたのである。

さて、内容についてなのだが、様々な内容の短いエッセイが80タイトルほど収録されている。ところでエッセイの単位はタイトルでいいのだろうか。個はなんとなく違う気もする。

全体を通しての感想を書くのが難しいので、ここでは収録されている作品の一つである「自意識トンネル」についての感想を書こうと思う。作者の愛すべき不器用さがこの作品に特に強く表れているように感じるからだ。強いて言うならこの不器用さに嫌悪感を感じる人は、この本自体を楽しく読めないかもしれない。

自分を気にする人などいないのに自意識過剰。
完璧などありえないのに完璧主義。
これらのことが変だとわかっているのに抜け出せない。

思春期にありがちな感覚だと思う。一度も感じない人はほぼ皆無なのではないだろうか。しかしその感覚を長く持ち続ける人はそんなに多くはいないだろう。皆どこかで折り合いをつけているのだ。自分よりも早く。

そんな思春期をこじらせた人(私が命名した)にこの本を是非読んでほしい。
瑞々しいねじれがこじれた自意識にフィットする、そんな一冊だと思う。