お題『自画自賛』『パパラッチ』『新聞配達』@師父

 ねぇ、刑事さん。例えば、です。あなたが人数の少ない弱小の部活に所属していて、活動実績を上げなければ廃部と言われて。それでも必死に立て直そうとしたなら、どうします?
 私は新聞部に所属していたんですけどね、ええ、学校内のイベントを取り上げて記事にして、掲示板に貼ったりするところです。くだらない事を拡大解釈して、波風立ちそうな際どい話に首を突っ込み、挙句プライバシーを無視する? いやぁ、なかなか悪人ですね。僕には無理でしたよ。
 なんで、嘘をでっちあげる事にしました。きっかけは下らないですよ? クラスメイトが財布を落としましてね。それを僕が拾ったわけです。次に会った時に渡そうと思ってたら、『盗まれた』だのなんだの騒ぎになりましてね。なんだか可笑しかったですね、あれは。
 そう、怪盗って奴ですかね。財布の中身を抜いて、落ちていた場所にこっぱずかしいカードと共に戻しておいたんです。それを記事にした。初めは馬鹿にされましたけどね。それ以降、適当な時間に予告カードを置いてみたんです。『三時間目の終わりに誰かの荷物が無くなるだろう』、なんて曖昧な、ね。ああ、勿論、そのタイミングで盗んで知名度を上げる、なんて危険はしませんよ。三時間目の終わりに実際、何か盗まれたかってクラスで話し合いがあって誰も名乗り出なかったら、悪戯だろうって話になりますよね。僕はまぁ、その話の最中もじーっと皆を見てました。だって、怪盗なんて信じる方がおかしいですから、荷物確認をしてない人っているんですよ。気の抜けた四時間目とか、放課後に机に残ってたものを盗ってしまう。三時間目の時点でなくなっていたのかも知れない、となれば勝ちです。四五回も繰り返して、他クラスからも盗んでみせたら、新聞が飛ぶようにはけましたよ。
 途中からはもう、酔っていましたね、自分自身に。怪盗の手際の良さを暗に書いたりね。ちょっと予告とかをし過ぎたり、ネタの仕入れが早過ぎて怪しまれもしましたが、そこは簡単ですね、自分も被害者になれば良い。自分のものですからね、盗むのは簡単で、後日、粉々にした携帯電話を怪盗のカードと共に発見した段階で疑いも晴れましたよ。まぁ、ほんとに自分の携帯を砕いたんで困りましたけど、学校内の器物破壊って保障されるケースもあるんですよね。
 え? なんでこんな事をぺらぺら話すのかって? いいじゃないですか。酔ってるんですよ、自分に。で、何の話でしたっけ? そうそう、怪盗が一躍有名になるとですね、犯人探しなんてのが流行り出したんですよ。或いは、犯人を突き止めようとするパパラッチみたいのも湧いて来ましてね。大分難易度が上がりました。その中で、平静を装いながら、誰にも見付からずに盗み続ける。もう、部活とどっちがメインか分からなくなりましてね。まぁ、次第に技術も上がっていくわけです。卒業後の進路に悩まずに済みました。
 はは、犯罪者の自慢話は聞きたくないって? 駄目ですよ、事情聴取でしょう? 怒ると周りが見えなくなりますよ。……そんなんじゃ、私の手錠が外れていたことに気付いてなかったですよね? お返しします。
 慌てたって駄目ですよ。手錠の頑丈さは良く知ってらっしゃるでしょう? 叫んで助けを呼んでみます? 良いですよ? 寧ろそうして頂きたいくらいですね。増援が来た程度では捕まりませんし、これはパフォーマンスですから。騒ぎになった方が格好良いでしょう? まぁ、間抜けな警官が出し抜かれるって見出しの方があなたには不名誉かもしれませんがね。
 ……え? 新聞を取って無い? この状況でよく強がりを言えますね。大丈夫ですよ。明日の午前7時頃、あなたの家に新聞配達に向かいますから。