杉井 光『さよならピアノソナタ3』@祈灯愁

あらすじ
 初めてのライブを終え少し距離が縮まったナオと真冬は、息つく暇もなく二学期のイベントシーズンを迎える。合唱コンクールに体育祭、フェケテリコ初の単独ステージとなる文化祭。神楽坂率いる民族音楽部の面々は、ときに敵としてときに仲間としてしのぎを削る。そんな折、真冬の前にひとりのヴァイオリニストが現れる。ジュリアン・フロベール。通称ユーリ。いたいけな女の子みたいな見た目で、真冬に気安く接する彼は、かつて共に演奏旅行をした仲だという。さらに彼の出現を境に真冬の指が動くようになり、ナオの動揺を誘うが――。おかしくて少し切ない、恋と革命と音楽が織りなす物語、第3弾。(折り表紙より)

感想
 この本は、久しぶりに涙腺にグッとくる作品となりました。半年くらい前に一巻を読んでから二週間ほど前に二巻、そして最近三巻を読み終えました。最近は溜めていた小説を消化しながら、速読の練習をしようとしています。
 さて、本題に移ります。ネタバレを少し含むこと、既知の元書かせていただくことをお許し下さい。
 各巻で起きたことを一言で説明すると、一巻はヒロインの真冬をバンドメンバーに引き込む話。二巻はバンドで合宿をして、初スタジオデビューした話。三巻は合唱コンクールや体育祭、文化祭といった学校でのイベントを満喫する話です。雑誌にも載るほど有名なピアニストである真冬。彼女はとあることをきっかけに、精神的要因によりピアノを弾けなくなる、いわばイプスに陥ってしまいます。その真冬がどのように再起していくのか、それがこの小説の見所の一つです。この巻では、ついに人前で演奏します。今までは主人公のナオの前で何度か弾いていましたが、他の人の前では弾けていなかったので大きな一歩です。その一歩の要因となった心の移り変わりを丁寧に書かれていて、面白かったです。
 僕が涙腺にグッときたのは、少年が葛藤する部分です。同じバンドメンバーであり、恋心を抱いている相手の真冬。彼女は右手が動くようになって、ピアノのレコーディングをユーリと共に進めます。今はまだバンドで一緒にいられる。でもピアノを弾けるようになった真冬は、元の舞台に戻って行くのではないか。自分の手が届かぬ場所に。さらにその場所には、真冬の右手を動くようにしたユーリがいる。こんな状況に、ナオは動揺しまくりです。悪く言えば、主人公はヘタレ鈍感の持ち主ではありますが、だからこそ自分の過去とシンクロする部分もあり、感情を揺れ動かさずにはいられませんでした。またナオにも成長が少し見られます。一巻、二巻では、自分の気持ちに対して素直になれず、気持ちから逃げているように見えましたが、今回はヴァイオリニストのユーリの登場により、逃げられない状況になります。最後の方では、言うのが恥ずかしい気持ちも本人に伝えます。
 一番印象に残っているのは、ユーリに招かれた場所で聴くユーリと真冬の演奏です。自分の好きな人が、自分にはたどり着けない高みで、他の男と分かりあっている。相手にどんな意図があろうと、こんなのを見せつけられると、もう無茶苦茶ですね。実際、ナオも無茶苦茶になっています。
 ここまで青春モノとして書いてきましたが、音楽の表現が多くあり、趣味が音楽である方ならより一層楽しく読めると思われます。音楽の教養がない人(僕もその一人です)でも、学園青春ものとして読めるので、おすすめです。
 以上で小説の紹介を終わります。ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。もしよろしければ、小説の方も読んでみてください。