野村美月『陸と千星 〜世界を配る少年と別荘の少女』@祈灯愁

あらすじ
両親の離婚話に立ちすくむ千星(ちせ)。明るく笑ってみせることで、壊れそうな家の空気を辛うじて保ってきた。けれど本当は、三人で一緒にいたいと、素直に泣ければよかったのだろうか……。新聞配達のアルバイトを続ける陸(りく)。母は家を空けたまま帰らず、生活の他に必要だった。ただ絵を描いていたい、そんな願いも叶わない。それを恨んでも憎んでもいないけれど、今までの自分は笑ったことなどあったのだろうか――。そんな二人が、出会う。切なく繊細なひと夏の物語。(裏表紙より)

感想(ネタバレ無しのつもりです)
この作品は、しっかりとした構成で起承転結を書かれていますが、特に大きな山があったり、大どんでん返しがあったりする話ではありません。しかし、繊細かつ丁寧な心理描写により、ほんのりとした温かみを体全身で感じることができる作品です。私にとって、特別な一冊になった気がします。
泣けない少女千星と、笑えない少年陸のふたりの視点を交互に描いていくことにより、お互いに考えていることや思っていることが直に伝わってきます。それだけに、ふたりに対して、もどかしくなったり、悲しくなったり、嬉しくなったり、様々な想いを抱くと思われます。最後の結末は、読む人にとって不服に思う人もあるかもしれません。しかし、この結末は実際に起こりそうなことであり、現実に千星と陸が住んでいるような、そんな想像をしてしまいました。
野村美月先生といえば、文学少女シリーズをはじめ、様々な作品を書いておりますが、この作品はそれらの作品を少し思い出させてくれるような作品となっています。あとがきにもあるように、長年温めた末の作品ゆえ、そういったものが表れたのだと思います。野村美月先生の作品を読んだことがない方にもおすすめの一冊ですし、一通り読んだという方にならよりおすすめの一冊です。
以上で小説の紹介を終わります。ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。もしよろしければ、小説を読んでみてください。最後に、更新が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。