「棒」「鷹」「飛ぶ」@掛流野カナ

僕の目の前、いや、目線よりもわずかに高い位置に、白い棒がかかっている。
これはただの棒ではない。
僕が超えなくてはならないひとつの壁である。



夏。
自分と同じ中学生で溢れた、陸上競技場。
棒(いわゆるバーのことだ)から数m離れた場所で、僕はそれを睨んでいた。
高さは1m55cm。僕のベスト記録の、5cm上の高さ。
でも大会の最初のバーの高さは1m55cmなのだ。
これを跳び越えられなければ、
僕は大会に出たにもかかわらず記録無しとなってしまう。
人生初の大会。
贅沢は言わないから、せめて記録は欲しいところ。



暑い日差しにじりじりと肌を焼かれ、汗がぽたぽたと滴り落ちた。
この汗の理由は、きっと暑さだけではない。



頭の中に、イメージを作り上げる。
バーを軽々と跳び越える自分。
小柄な体が、ふわりと浮き上がり、一瞬だけ羽が生えたように思えるあの感覚。
あれを思い出すのだ。
能ある鷹は爪を隠す、と言うじゃないか。
僕の力なら余裕だ、こんなもの。そうだ。跳べる。飛べる。



そう、飛ぶ。



僕は大いなる夢に向かい、第一歩を踏み込んだ。