似鳥 鶏『戦力外捜査官 姫デカ・海月千波』@刹那

あらすじ
捜査一課に配属されてきた身長150cm未満(推定)でアイドル並みにかわいい海月警部は、周囲のかすかな期待を裏切る捜査能力の低さで、たった二日で戦力外通告されてしまう。お守役の設楽刑事と独自に連続放火事件を追ううち、「冤罪」と噂される7年前の事件に辿り着くが――。すべての点が繋がった時、真犯人の壮大な復讐計画が明らかになる!(本書帯より)


感想
 まさかまさかの三回連続(*1)です。もうここまできたらやるしかないと思いました。
 と言う訳で本作の書評に移ります。
 ライトなノリのタイトル、かわいいピンクピンクした装丁イラスト。軽めのコミカルな文体に、ライトノベルを彷彿とさせるポップな登場人物設定。本作はこれらすべてをひっくるめた、『本格的な王道の警察もの』です。書きながらどんな小説だよと錯乱しましたが事実です。
 テーマとして冤罪事件や動脈硬化を起こしている警察組織など硬派な内容を扱っていて、かなり殺伐とした世界観の中を、おっとりドジっ子天然お嬢様という著者にしてはやや強引な設定を持つ海月警部が、お守役の設楽刑事を引き連れ自由奔放に動き回ります。設楽刑事をはじめとする他の登場人物にアクが少ないのもあり(警察関係者にしてはおとぼけというか、のんきというか……ですが)、ずいぶんと雰囲気から浮き出ているように感じます。序盤はこんな大事な時に何ボケかましてんだこのお嬢さん、と若干苛つかされたりもしました。しかし一見脳内お花畑な海月警部が本気を見せ始めてから(彼女的には最初から本気なのでしょうが)は、コミカルからシリアスにシフトチェンジ。連続放火事件に隠された真の目的と七年前の女児殺害事件が結びつき、捜査員総出の大捕り物に繋がるヤマ場への盛り上がりはページを繰る手が止まらず、とてもよかったと思います。
 しかし、その分シリアスなのかコメディなのかどっちつかずでもやもやしてしまいました。重いテーマだけど堅苦しくなく読める、というのは前回の書評作品(*2)とも繋がるのですが、個人的には今作ではそれほど良い方に傾いているとは思えませんでした。しっかりとした骨組みのある警察ものなのに、コメディチックな登場人物が警察成分を薄めてしまい、なんだかいいところを打ち消しあっていてもったいないな、というのが感想です。このテーマでここまで読みやすいものに仕上げてくるのは流石ですが、はっきり言って違和感をぬぐいきれません。とっかかりとなる序盤の段階で時系列等が分かりにくかったこと、トリックに新鮮味がなかったことも残念でした。
 全体としては楽しく読むことができましたが、似鳥さんということで期待しすぎていたせいか物足りなさも感じました。さらに安定のあとがきが卑怯なまでの面白さで、本編をふっ飛ばす勢いだったのが余計になんだかなあ、と思わせます。ラストのシーンを見るに、シリーズ化も視野に入れられている作品かと思いますが、今後の方向性が楽しみではあります。
 なんだか書評としての方向性が見えなくなってまいりましたが、結局何が言いたいかというと、登場人物たちのかけあいの細かさや楽しさは相も変わらず素晴らしく、本格だけど本格過ぎない、気楽に読むことの出来る作品です。違和感を覚えつつも何故か突っかかることなく読み終えてしまう不思議な魅力のある本ですので、息抜きのお供に読んでみるのも一興かと思います。


(*1)2013-6-2[週刊書評] 似鳥 鶏『昨日まで不思議の校舎』@刹那、2013-6-30[週刊書評] 似鳥 鶏『ダチョウは軽車両に該当します』@刹那に続き、三回連続で同じ著者の書評を敢行。ついに全シリーズ制覇につきリンクを貼ってみました。
(*2)(*1)二つ目のリンク参照。